罹災証明の遅れについて【熊本地震】(5月13日のFBより)

室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
2016/05/13
室﨑先生のふぇいすぶっく
室﨑 益輝
神戸大学名誉教授、ひょうご震災記念21世紀研究機構副理事長、兵庫県立大学防災教育研究センター長、ひょうごボランタリープラザ所長、海外災害援助市民センター副代表
罹災証明の遅れについて
修理をすればすぐにでも元の家に居住できる人がいます。公費で解体して撤去すれば自宅の庭に簡単な自力仮設を立てることができる人もいます。みなし仮設として認められるのであれば自力で空き家を見つけて入居したい人もいます。生活再建支援法の適用を受け支援金がもらえると自力再建にすぐにでも足を踏み出せる人がいます。
しかし、それらは「罹災証明」という公的な被害認定がなければ、前に進めない仕組みになっています。もっとも、写真等の被害を認定できる証拠があれば、先に取り壊しても罹災証明は自治体の判断で出せるし、罹災証明が出ていなくても後から必ず出るということであれば、罹災証明がなくても仮設の申請を受け付けるという大岡裁きが可能です。
ただ、いづれにしても、罹災証明を前提とするならば、いかにしてその速度と精度を高めるかが問われます。
阪神・淡路大震災の時、約2000人の建築学科の学生や建築士さんの協力を得て、ほぼ1か月で50万棟の家屋被害調査を、都市計画学会と建築学会の協力でやり遂げました。専門性の高いスタッフを大量に集めれば短期間にできるということです。この場合、,行政事務だから行政職員でということにこだわらないことです。
昭和9年の函館大火の時、北海道庁は現役の北大の建築学生を臨時に雇用して、復興計画にあたらせています。行政職員にこだわるなら、臨時雇用すれば済むことです。
日本海中部地震など、阪神・淡路大震災の前は、罹災証明は自主申告でした。すなわち、調査員は被災者一人一人でした。被災の実態をもっとも知っている被災者に任せたのです。税金の確定申告と同じ論理です。もっとも、不正申告をすれば厳罰に処すのは当然です。阪神・淡路大震災の時、この自主申告のやり方をしようとして芦屋市は国から大目玉を食らいました。義援金の配分など公金に関わる認定をそんないい加減なやり方でしていいのかということでした。そこで、とても面倒な判定基準がつくられました(今はかなり簡略化されていますが)。
ここからいえることは、被災者を信頼することができるなら、あるいは保険会社とリンクすることができるなら、手際よく認定する道があると思うのです。
応急危険度判定とのリンクができないか、ドローンや傾斜自動診断などの技術が使えないか、とも思っています。今後のためにもいい方法を開発しなければなりません。
熊本の被災者の皆さんには、「今頃そんなことを言われても」とおしかりを受けかねないコメントでした。ただ、私自身も被災者の皆さんとは違った立場で、どうすべきか悩んでいます。
室﨑先生のふぇいすぶっくの他の記事
おすすめ記事
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/05/13
「まさかうちが狙われるとは」経営者の本音に向き合う
「困った人を助け、困った人を生み出さず、世界中のデータトラブルを解決します」。そんな理念のもと、あらゆるデータトラブルに対応するソリューションカンパニー。産業界のデータセキュリティーの現状をどう見ているのか、どうレベルを高めようとしているのかを聞きました。
2025/05/13
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/05/05
企業理念やビジョンと一致させ、意欲を高める人を成長させる教育「70:20:10の法則」
新入社員研修をはじめ、企業内で実施されている教育や研修は全社員向けや担当者向けなど多岐にわたる。企業内の人材育成の支援や階層別研修などを行う三菱UFJリサーチ&コンサルティングの有馬祥子氏が指摘するのは企業理念やビジョンと一致させる重要性だ。マネジメント能力の獲得や具体的なスキル習得、新たな社会ニーズ変化への適応がメインの社内教育で、その必要性はなかなかイメージできない。なぜ、教育や研修において企業理念やビジョンが重要なのか、有馬氏に聞いた。
2025/05/02
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方