2016/10/06
業種別BCPのあり方
旗幟を鮮明にする
経営者は、緊急事態の発生が明らかになった場合は、詳しい状況が判明しない段階であったとしても、緊急事態対応に対する自らの関与(コミットメント)、対応に関する考え方や方針を明らかにし、投入する経営資源について明確に指示する方がよい。「思い切った対応を取れ」といった表現では足りない。経営者の考えている「思い切った対応」と受け止める側の「思い切った対応」は多くの場合異なるからである。
また、対応要員は、経営者から示された方針をより具体的に変換し、例えば「現地対策本部長となる支社長を支援するため、本社各部から●●名を派遣する」といった本社側の対応や、「現地支社長の決裁枠は、通常の10万円から100万円まで引き上げる。対応予算の総枠は現段階では●●万円とし、予算消費率が80%を超えた段階で別途本社総務部と協議せよ」といった現場支援のための指示を起案することができなければならない。
事実をとらえる
見た状況を言葉で正確に表現するためには、日頃からの訓練が必要である。「壊滅的な状況です」あるいは「大きな被害はありません」などの表現が正確に事実を反映しているかどうかは分からない。「大きな」や「壊滅的な」といった表現は、いずれも感覚的な表現であり、報告者の判断が入り込んでいるからである。
調べるとは、測り、数え、記録することである。正確な調査を行うためには、「何をどのように確認する」という手順の部分を揃える必要がある。調査項目と調査手順は事前に決めておくことが理想的である。このような工夫をしておけば、「建物には大きな被害はありません」といった表現ではなく、「建物の柱を確認しましたが、2本に大きな亀裂が見つかっています。画像を確保していますので、通信状況が改善したら送付します。耐力壁の被害は見つけられていません」といった表現による報告が上がるようになるのである。
ただ、そのような準備がないまま、緊急事態になった場合は、報告書式を至急配布するなどの手段により、第一線に対して「何をどの程度調べてほしいのか」を明らかにしていくことが有効な手段である(情報要求の明確化)。
認識を揃える
状況に対して適切な対応を行っていくためには、組織内で状況認識の統一を図る必要がある。このことを実現するために、米国の危機管理システムである「IncidentCommand System」では、状況認識統一図(CommonOperational Picture, COP)と呼ばれる一枚絵を作ることを重要視している。日本では、内閣府防災担当が作成する「とりまとめ報」と呼ばれる資料がその役割を果たすが、一覧性に欠けることが難点である。やはりここは図や表で表すことに挑戦したい。
自衛隊の図上演習などで使われる手法は地図上にまとめるものである。リスク事象の影響が生じた範囲の地図を大きな机に貼り、その上から透明なシートを貼る。書き込む際には油性ペンを使用すると、一度記入したものでも消すことができる。被害情報は赤、応援部隊は緑というように色を使い分けるとよりわかりやすくなる。この場合、定期的に写真を撮影し、記録を取らないと、以前の状況を確認することができなくなる。
もう一つ、表を作っていく方法もある。縦軸に事業所、横軸に緊急時に必要な対応項目を取る。このマトリクスに対応状況をルールに従って表示していく。京都大学防災研究所の牧教授は、情報が入っていない項目を黒く塗り、加えてBという文字が入っていることが分かるようにすることを勧めている。取組みなしもしくは未対応の項目は赤とR、対応中の項目は黄とY、対応完了の項目は緑とGの組み合わせとなる。このように表示していくと、組織の対応状況が一目瞭然となる。色による識別効果は非常に大きく有益である。また、文字を併記すると、手持ちの印刷資料はモノクロにすることができるようになる。
業種別BCPのあり方の他の記事
- 第23回 事業中断対策の今後(1)
- 第22回 自動車販売業の事業継続
- 第21回 緊急事態における企業の対応要員の行動
- 第20回 ガス業の事業継続(2)
- 第19回 ガス業の事業継続(1)
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