2019/08/23
危機管理の神髄

究極のマルチタスク
その悲劇的な衝撃を否定することはあり得ないが、この破滅的なシナリオも災害規模の物差しでは小さい方の範疇(はんちゅう)にあるものである。あなたはそのシナリオでのボスだった。そのクライシスがもたらした問題への対応でいかに圧倒されたか考えてみてほしい。
そこでより広域のあらゆるものを含む災害のボス、例えばハリケーン・カトリーナのときのニューオリンズ市の市長だったとしたらどうだろうか。8月下旬の長く暑い日々の間、クライシスはニューオリンズを混沌の淵に落とすために辛抱強くそのときを待っていた。2005年8月29日、ガルフ湾岸での人的ニーズのサージ(大波)がどのようなものであったろうか。あの日クライシスがもたらした課題はいくつであったろうか、20か、200か、1200だっただろうか。それらの全部を処理するのはどれほど大変なことであったろうか。
被災した共同体にとって不幸なことには、事故直後の数時間、対応する共同体の側では、準備が整っておらず迅速な反応ができなかった。
被災地域の全体にわたって、対応チームを現場に配備すること、排水すること、電力を回復させること、道路を使用可能にすること、といった対応能力を持つのは数日、場合によっては数週間先のことであった。
この不幸な状態は今日もほとんど変わっていない。われわれはそれを“迅速性と規模”の挑戦と呼んでおり、政府が抱える最大の課題である。私を含めた災害専門家にとっては、それは失敗と屈辱以外の何者でもない。被災した共同体-高齢者・障がい者・子供・家族―にとっては、大きな苦しみを意味する。
クライシスはこのことを理解している。そのサージ(大波)は電力・水・食料・医薬品・衛生品・家などの重要なインフラを、ユニークで前例のない方法で遮断するように特別に設計された混沌たる混合物である。
これに対抗するためには、多くのことを同時にやるというのでは不十分である。人間が必要とするものは待った無しなので、全てのことを一度にする能力を持たなければならない。
クライシスが大波でやってくるのであるから、われわれもまた大波で迎え撃たなければならない。発災直後の津波のように押し寄せる課題を処理するためには、われわれは十分巨大で、十分迅速であらねばならない。
ここで明らかにしておきたいことがある。サージング(大波が寄せる)というのは、スターバックスのコーヒーをおかわりしてがむしゃらに働くということではない。危機対応チームに来てもらって、腕まくりをして、少しばかりの幸運があれば、仕事をやり終えることができるというものでもない。サージングとは今のチームに15倍の人員を投入することである。今持てるものの15倍の資源を持つことである。あなたの危機対応チームを、それぞれの使命の別に、人によって異なるニーズの別に絞った15の危機対応チームにすることである。
イメージが浮かんできただろうか?
この点で異論のある人もいるであろう。「ちょっと待ってくれ、それは時機尚早じゃないか。まず集合して準備を整えようではないか。損害の評価ができるまでは、大したことはできないよ。現場の状況について明確な理解ができる前に、大勢の人と装備を動かし、大金を費やすのは賢明ではない」と言うだろう。
こうしたことを言う人たちはクライシスの呪文に縛られているのである。パラレルな宇宙ではこの種の言い訳をよく聞くだろう。仮にも呼べば聞こえる範囲でこの手のことを聞くことがあるならこう言うべきである。「実際問題として、今必要なのは、可能な限り大きくあること、可能な限り迅速であることだ。大量の人員と装備を現場に配置するだけではなく、知っている全ての人に連絡をして、入手可能なもの、あるいはこちらへの途上にあるものの全てを得なければならない」。
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