敵を知る

「彼を知らず、己を知らざれば、戦う毎に必ず危し」
                         ―孫子 『兵法』

災害直後に感じるあの不思議な感覚のことを覚えているだろうか? 混沌に突き落とされたような非現実の感覚である。災害現場を幾度となく経験した人でもそのたびに持つ感覚である。感情の地下室から何度か抜け出した後、いくつかのことを学ぶ。何をすべきか、より重要なものとして、いかに考えるか、中でもクライシスがわれわれの敵であることをどのように考えるべきかについてである。われわれが敵について知れば知るほど、それだけ物事は良い方に向かう。例えば、クライシスは把握されることを好まないのであなたからは隠れているということを学んでいる。クライシスがあなたの上に覆いかぶさっているのに気が付かないのはそのためである。

クライシスは一人ひとりに異なる顔を見せるので、一つとして同じ災害ストーリーはない。いつも災害現場にいる人と同じ数のストーリーがある。

各々のクライシスはほとんど全ての面でユニークな変わり者である。あなたは見たこともないものを見て、そんなことを聞くとは思ってもみなかったことを聞くだろう。これらには即席でやること、新しいアイデア、解決への奇抜なアプローチが求められる。

クライシスは嘘をつくので、特に最初の段階にあなたが聞くことはほとんどが誤りであろう。

自分ではクライシスに対して準備はできていると思う。しかしそれがやって来ると、あなたの心はまっさらに洗い流されて全てのことを忘れてしまう。

クライシスは犠牲者を人質にとる。彼らとは話をさせてくれないので、正常な世界の人がクライシスの影響下にある人―高齢者・子供・家族―とワームホールを通して語りかけるときの最も一般的な結果は怒りである。

その良い例が、突然やってきた2010年のクリスマス・ブリザード(暴風雪)である。長い休日となる週末の金曜日、国立気象局は、ニューヨーク市は5インチの積雪になると予報した。深夜にはその予報は8インチに変更された。翌日クリスマスの日の午後までには、国立気象局は暴風雪警報を出して、ニューヨークの積雪は14インチになると予報した。