4)市場変動の予測と適正在庫の確保

災害発生後、市場の様相は一変することがある。例えば先に紹介した2011 年の東日本大震災では、震災の影響を受けて中古車市場の在庫車が急減し、流通量は過去5 年で最低の330 万台弱まで落ち込んだ。

緊急事態が発生した場合は、保有する在庫車の状況を確認し、その販売可能性を確認したうえで、当該緊急事態が市場に与える影響を考慮し、必要に応じて在庫車を適正量に調整することが望ましい。市場は状況の変化を織り込んで変動するため、在庫量の調整は早いタイミングで開始する方が有利となる。

基本的には緊急事態、特に自然災害の発生は市場に対してネガティブな影響を与える。地震による被害が大きかった地域であれば、消費者心理の冷え込みを先読みして、在庫車を業者間転売に回すなどにより、在庫を削減し、キャッシュを確保するなどの対応が考えられる。一方、大規模水害が発生したのであれば、消費者心理は冷え込むとしても生活の足としての自動車のニーズは急増すると見込まれることから、低価格帯中心に在庫車を積み増すなどの対応が考えられる。

在庫量の適正管理は、自動車販売業の経営上非常に重要である。このため、緊急事態においては、なるべく早い段階で市場変動に関する予測を経営陣の間で交換し、一定の合意を形成しておくことが望まれる。この予測は、在庫車の確保量に関わる重要な意思決定である。

4.自動車販売業の事業継続対応

緊急事態において自動車販売業がまず目指すべき目標は、お客さまが車を使った生活を可能な限り早急に再開できることである。一方、近年の緊急事態における実績では、水による災害が発生しない限り、数多くの乗用車が同時に被災するということは考えにくいことも事実である。これらのことを踏まえ、自動車販売業の事業継続対応において取組むポイントを考える。

1)乗用車を失ったお客さまへの代替車の提供

乗用車を失ったお客さまには可能な限り早急に代替車を提案し、車を使った生活をなるべく早く再開いただくことが自動車販売業に求められる最大の優先継続業務である。提供といっても通常通り販売すれば足りる。緊急事態において企業に求められる社会貢献とは、本業を通じてお客さまの生活をより良いものにすることであり、緊急事態だからといって、販売活動を取りやめなければならないというものではない。

2)お客さまへの情報提供

大規模な自然災害が発生した場合、国土交通省の決定により車検証の有効期間が延長されることがある。例えば熊本地震では、2016 年4 月15 日~ 5 月14 日までに有効期間が終了する乗用車については、暫定的に5 月15日まで有効期間の延長が行われた。

また、特定非常災害特別措置法の制定により、大規模な自然災害の発生後には、被害者の権利や利益を保全するために様々な特定措置が実施されることがある。自動車関連での一例としては、自動車登録に必要な印鑑証明書、自動車保管場所証明書、自動車の使用者の住所を証する書類などの有効期間が延長されるようになったことが挙げられる。