■ 手招きしたのは内部スタッフかも

果たしてこの役人たちは、本当に政府機関の人間なのでしょうか? まず、疑いましょう。いくら中国だからと言っても、役人だからと言って勝手に工場に侵入し、好き勝手に設備を見て回ることは許されておりません。従って、制服は着ていないことは仕方ないとしても、自らの出自をしっかり証明するだけの身分証明書なり、査察を行という公文通知書を持参しているべきなのです。ところが、中国の事情に不慣れな日本人責任者の場合には、ローカル担当スタッフがその通りだと言えば基本的に信じようとするでしょう。

しかしです、もし御社のその担当者がグルで、役人として来た人間が詐欺集団だったらどうでしょうか? 自分はまんまと彼らにだまされてしまうのです。御社のスタッフが企図して招き入れた出来レース的詐欺行為でないという保証はどこにもありません。まず、しっかり役人と名乗る人たちの身分証を確認してください。それは当然の権利です。

次に、調べた結果、役人は本物だったとしましょう。

しかし、彼が言うところの「設備の不備事案」は本当なのでしょうか? それも眉唾の可能性があります。それに、指定の業者を紹介されるなどいうことは本当にあるのでしょうか? 一般に日本人駐在員は「指定業者を使っていれば、検収も早く通るし役人からの許可も早く下りるだろう。別の業者を使って意地悪されるよりは、得策かもしれない」などと考えがちですが、これはまさしく蟻地獄の入口なのです。

この場合必ずやるべきことは、果たしてそのような事実(改訂された法律では違反状態うんぬんなど)があるのか、さらには指定業者を使った設備の導入の必要性について、セカンドオピニン、サードオピニオンをしっかり確保してください。もし、これが本当にそのような決まりがあり改善が必要だということが確認できたら、次はなぜその指定業者を使う必要があるのかを追求してください。指定業者を使うことが必須である理由を役所に確認すること、そしてそれを明文化した文章で提出してもらうことを行ってください。

「そこまでしなくても」と思われるかもしれませんが、このような煩雑な手続きをローカル担当者に取らせることが「悪事を働かせないための抑止力」となるのです。これだけしつこく問い詰めると、大体の悪人は手を引きます。利益に対しての手間が増えるからです。悪事の費用対効果が悪いとでも言いましょうか。さらに、そのような手続きを踏ませることでどこかでうそのボロが発覚します。それにより証拠をつかむことが、悪事の種をつぶすための最高の手段となります。

日本人駐在員の方々は、どうしても生産の安定と確実性に頭がいってしまいがちで、このような生産とは直接関係のない事には気を配れないことも多いとは思いますが、ここは一歩踏みとどまって「イヤ、待てよ」と疑ってみることをお勧めします。このような手間のかかる仕事を避けないということが、中国事業成功の鍵といっても過言ではないでしょう。

(了)