2016/09/28
誌面情報 vol57
安全配慮義務違反が問われるのは3つのケースに分けられます。石綿製品の製造・加工等を行う工場の屋内で作業させていたケースと屋外で作業していたケース、そしてアスベストの存在する環境内で業務を行っていたケース。これは直接アスベストに関する業務はしてないが、その近くで作業したことで被害を受けたものです。
そして実際に問われるポイントは3つあります。このうち1つでも責任がないと示せれば責任が問われることはありません。1つはアスベスト関連疾患の発症と業務との因果関係の有無。簡単に言えば、やらせていた業務が原因となって中皮腫などの疾患が発症したと判断できるか。つまり、アスベストに曝露する可能性がある業務であったかどうか。
2つ目の要素は結果の予見可能性です。これは企業としてその危険がわかっていたのか、結果を予見できたのかということです。この点に関しては特に医学的な知識が重要になり、その当時の一般的な知識がどの程度あったのかが問われます。3つ目の要素が結果の回避可能性。これは例えばアスベストは非常に危険な物質であるというのはみんなわかっているがそれを防ぐ技術や手立てがあったのかどうか、実際に結果を回避することができたかどうか、ということです。
これらの対策としては、1つ目に対しては、従業員の勤務内容の記録をしっかりと取って保存しておくこと。2つ目に対しては、アスベストに関する医学的な情報は常に最新なものにして下さいということ。3つ目に対しては、防御装置など技術的な側面も常に最新なものにキャッチアップしてくださいということです。
所有者の責任
最近は建物所有者の責任も問われるようになっています。所有している建物にアスベストが劣化して飛散しやすい吹き付けアスベストが使われ、借りた側が中皮腫を発症すると訴えられます。最高裁が差し戻した平成26年2月27日の高裁判決では、所有建物を貸していた鉄道会社の責任を認めました。この訴訟のポイントは、会社が従業員から訴えられているわけではなく、物件を貸していた人から訴えられているところです。対策として重要なことは、まず企業がどのような物件を所有しているのかというのをしっかり把握して、各物件でこういった吹き付けアスベストなどが危険な状態にあるものがないか、もしあるのだとしたら飛散を防止するような措置をちゃんと取っているかどうか。そして賃借人にしっかりと説明しているかを再度チェックしないと企業が建物の所有者として責任を負いますので十分注意してください。
改正石綿障害予防規則
最後に平成26年に改正された石綿障害予防規則について簡単に説明します。厚生労働省のホームページにわかりやすく書かれています。例えば、吹き付けられたアスベストの除去の際に排気口からの石綿漏洩有無の点検が必要になり、作業場所の前室として体を洗う部屋と更衣室を併設しなければならない。負圧状態の点検が必要になるなど新たな改正ポイントをしっかり確認してください。もしこの確認を怠ると、安全慮義務違反で数千万円単位の損害賠償請求訴訟になりますので、どんな対策を講じればいいか検討してください。
(了)
誌面情報 vol57の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方