2016/10/11
誌面情報 vol57
危機管理の盲点となるメンタルヘルス

Q1.うつ病を発症し従業員の就業が困難になったり、自殺に至り遺族が損害賠償を請求するケースが増え、メンタルヘルス対策が急務となっています。
大企業は1990年代からメンタルヘルス対策に取り組んできましたが、一般的な企業まで広がり始めたのはここ10年ほどのことです。企業にとってショッキングなのは従業員のうつ病や自殺が労災認定されること。
労災といえば建設現場の事故をすぐにイメージすると思いますが、時代とともに新たなリスクが見い出されます。脳卒中や心筋梗塞などが原因となる過労死が労災として認められるようになり、そしてメンタルヘルスが加わりました。
メンタルヘルスの分野で有名なのが電通事件です。過重労働が続き、うつ病になり自殺した従業員の遺族が訴え、最高裁が差し戻して電通が1億6800万円を支払うことで和解しました。1億円を超える賠償を求める訴訟は少なくありません。
また、表に出なくともメンタルヘルスに不調をきたした従業員と紛争になり、雇用の保障や多額の金銭を求められるケースはたくさんあります。
Q2.メンタルヘルスを病む人が増えているのでしょうか?
人を就労させることによるリスクをまとめて労務リスクと呼んでいます。この労務リスクは近年増大し、例えば労災の申請数と認定数のどちらも増えていることも、その表れです。
厚労省の発表では精神障害での労災申請件数が昨年度はとうとう1500件を超えました。労務リスクのマネジメントに失敗すると経営は大打撃を受けます。風評被害から株価の下落や採用困難に陥るなど、会社そのものが傾くことすら起こり得ます。
Q3.なぜメンタル不調にかかわるトラブルや訴訟が増えているのでしょうか?
社会構造の変化が大きく関与しています。以前は年功序列だった人事制度が成果主義になり、長期雇用や報酬で報われず、そこで心身を壊してしまったなら労働者と会社のつきあい方は変化せざるを得ません。
だから労働者は権利を行使するわけです。この流れは、ある意味グローバル化やダイバーシティの代償とも言え、企業は避けて通ることはできないでしょう。
Q4.メンタルヘルス対策のポイントを教えてください。
大企業がリードするかたちで進んでいるメンタルヘルス対策ですが、中小企業ではまだまだ。従業員数で見ると1000人から3000人程度の中堅企業で対策に手がつけられ始めた状況です。
当社では、企業がメンタルヘルス対策を行う際の体制構築や、社内規程(ルール)などの策定支援を行っており、うつ病の予防や、従業員向けのカウンセリングを提供する、いわゆるEAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)を展開する事業者とは一線を画しております。
企業防衛の視点に立ったメンタルヘルス対策の専門家として、人事部門の負担軽減や、万が一の労使トラブルから企業を守るお手伝いをしております。
支援の一例として、不調者の取り扱いルールの策定が挙げられます。現場の管理職が不調者を発見してからの行動マニュアルを作り、それが人事部に伝えられてからのフローチャートも用意します。
規程では医師の診断書提出や産業医面談を必須にしておき、それに伴う帳票類も用意する、といった感じです。ルールを整備して帳票を作り、誰が行っても同じようにできる仕組みを作る…ややISOに似た側面がありますね
メンタルヘルス対策というと、非常にデリケートな業務と思われがちですが、定型化することで属人化を防ぎ、ミスが起こりにくくします。ルールや仕組みがなければ、上司と部下の間でトラブルになることもあり、スムーズに対応できません。上司もストレスを抱えるだけです。また、不調者を放置すれば、同僚の負担も増え、悪影響は取引先や顧客など、周辺にも広がっていきます。
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