2016/10/20
防災・危機管理ニュース
「原状回復が借り手側に課せられている賃貸住宅でも、エアコンを設置するためのビス跡は『通常損耗(※)』と判断され賠償義務はない。一方、家具転倒防止措置のために壁に空けるネジ穴は通常損耗に当たらず、現在では原状回復のために借り手が修繕しなければいけない可能性が高い。これではなかなか家具転倒防止が普及しない」と話すのは、「災害復興まちづくり支援機構」を設立し、災害時に弁護士として多くの被災者の相談に応じてきた弁護士の中野明安氏。
(※通常損耗…建物の経年劣化や貸借人の通常使用に基づく消耗・損傷などのことを指し、原状回復の義務はない)
「東京都が発行する『東京防災』でもあれだけ家具の転倒防止には壁固定が最も効果があると紹介しているのだから、壁固定によるネジ穴もエアコンのビス跡と同じように通常損耗と扱われなければおかしいのでは」と続ける。
中野氏によると、両者の違いは「社会の認知度の違い」だけであるという。多くの家庭で、エアコンのネジ穴は通常必要なものとされている一方で、家具の転倒防止措置のネジ穴は多くの家庭で普及しているものではなく、したがって必要なものと認識されていない。そのため賃借人も実践しなくなり、ますます社会的にも認知されないという悪循環の構図ができあがってしまっているという。
「地震では多くの人が家具の転倒により大けがをしている。そのような残念な結果を法律的に防ぐには、転倒防止措置として空けたネジ穴などは、通常損耗として扱われ、原状回復不要という社会の常識を作り上げること。それが法律の解釈を変えていくことになる」と強調する。
現在、中野氏は東京都に対して、都営住宅については壁固定のために空けたネジ穴は通常損耗として認めてもらえるように要請している。
「家具のなかでも特に冷蔵庫の転倒は重くて危険。さらに転倒してしまえば災害時の貴重な食糧がとりだせなくなる。少なくとも冷蔵庫だけでも、あらかじめ壁に固定できるようなフックを都営住宅は準備してほしい」と話す。都営住宅が変われば、そのほかの公営住宅や、民間の賃貸物件でも認識が変わっていく可能性は高い。
しかし、やはり法律の解釈変更に必要なのは世論の形成だ。そのためには、エアコンの設置と同じく「家庭で転倒防止措置を施すことは社会の常識」となる必要がある。
中野氏は「皆さんの家庭で転倒防止措置が進めば進むほど、社会の常識が変わり、「転倒防止措置のネジ穴=原状回復義務あり」との法律解釈を「転倒防止措置のネジ穴=通常損耗」に変えることができる。法律(=世論形成)と防災という、関係がなさそうな両者に実は密接な関係があるということを、皆さんにぜひ知っていただき、その試みという意味でも転倒防止措置を実施してほしい」と、生活者による世論形成の重要性を訴えている。
(2016年10月1日開催「~首都圏でもし大震災が起きたら?!~第57回「法の日」週間記念行事 法の日フェスタ」における中野氏の講演内容から)
(了)
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