2016/10/20
防災・危機管理ニュース
![](https://risk.ismcdn.jp/mwimgs/e/a/670m/img_ea816dc43e866488660413752efb1464119966.jpg)
「原状回復が借り手側に課せられている賃貸住宅でも、エアコンを設置するためのビス跡は『通常損耗(※)』と判断され賠償義務はない。一方、家具転倒防止措置のために壁に空けるネジ穴は通常損耗に当たらず、現在では原状回復のために借り手が修繕しなければいけない可能性が高い。これではなかなか家具転倒防止が普及しない」と話すのは、「災害復興まちづくり支援機構」を設立し、災害時に弁護士として多くの被災者の相談に応じてきた弁護士の中野明安氏。
(※通常損耗…建物の経年劣化や貸借人の通常使用に基づく消耗・損傷などのことを指し、原状回復の義務はない)
「東京都が発行する『東京防災』でもあれだけ家具の転倒防止には壁固定が最も効果があると紹介しているのだから、壁固定によるネジ穴もエアコンのビス跡と同じように通常損耗と扱われなければおかしいのでは」と続ける。
中野氏によると、両者の違いは「社会の認知度の違い」だけであるという。多くの家庭で、エアコンのネジ穴は通常必要なものとされている一方で、家具の転倒防止措置のネジ穴は多くの家庭で普及しているものではなく、したがって必要なものと認識されていない。そのため賃借人も実践しなくなり、ますます社会的にも認知されないという悪循環の構図ができあがってしまっているという。
「地震では多くの人が家具の転倒により大けがをしている。そのような残念な結果を法律的に防ぐには、転倒防止措置として空けたネジ穴などは、通常損耗として扱われ、原状回復不要という社会の常識を作り上げること。それが法律の解釈を変えていくことになる」と強調する。
現在、中野氏は東京都に対して、都営住宅については壁固定のために空けたネジ穴は通常損耗として認めてもらえるように要請している。
「家具のなかでも特に冷蔵庫の転倒は重くて危険。さらに転倒してしまえば災害時の貴重な食糧がとりだせなくなる。少なくとも冷蔵庫だけでも、あらかじめ壁に固定できるようなフックを都営住宅は準備してほしい」と話す。都営住宅が変われば、そのほかの公営住宅や、民間の賃貸物件でも認識が変わっていく可能性は高い。
しかし、やはり法律の解釈変更に必要なのは世論の形成だ。そのためには、エアコンの設置と同じく「家庭で転倒防止措置を施すことは社会の常識」となる必要がある。
中野氏は「皆さんの家庭で転倒防止措置が進めば進むほど、社会の常識が変わり、「転倒防止措置のネジ穴=原状回復義務あり」との法律解釈を「転倒防止措置のネジ穴=通常損耗」に変えることができる。法律(=世論形成)と防災という、関係がなさそうな両者に実は密接な関係があるということを、皆さんにぜひ知っていただき、その試みという意味でも転倒防止措置を実施してほしい」と、生活者による世論形成の重要性を訴えている。
(2016年10月1日開催「~首都圏でもし大震災が起きたら?!~第57回「法の日」週間記念行事 法の日フェスタ」における中野氏の講演内容から)
(了)
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
-
3線モデルで浸透するリスクマネジメントコンプライアンス・ハンドブックで従業員意識も高まる【徹底解説】パーソルグループのERM
「はたらいて、笑おう。」をグループビジョンとして掲げ、総合人材サービス事業を展開するパーソルグループでは、2020年のグループ経営体制の刷新を契機にリスクマネジメント活動を強化している。ISO31000やCOSO-ERMを参考にしながら、独自にリスクマネジメントの体制を整備。現場の業務執行部門(第1線)、ITや人事など管理部門(第2線)、内部監査部門(第3線)でリスクマネジメントを推進する3線モデルを確立した。実際にリスクマネジメント活動で使っているテンプレートとともに、同社の活動を紹介する。
2024/07/23
-
インシデントの第一報を迅速共有システム化で迷い払拭
変圧器やリアクタなどの電子部品や電子化学材料を製造・販売するタムラ製作所は、インシデントの報告システム「アラームエスカレーション」を整備し、素早い情報の伝達、収集、共有に努めている。2006年、当時社長だった田村直樹氏がリードして動き出した取り組み。CSRの一環でスタートした。
2024/07/23
-
「お困りごと」の傾聴からはじまるサプライヤーBCM支援
ブレーキシステムの開発、製造を手掛けるアドヴィックスは、サプライヤーを訪ね、丁寧に話しを聞くことからはじまる「BCM寄り添い活動」を2022年度から展開している。支援するのは小規模で経営体力が限られるサプライヤー。「本当に意味のある取り組みは何か」を考えながら進めている。
2024/07/22
-
-
危機管理担当者が知っておくべきハラスメントの動向業務上の指導とパワハラの違いを知る
5月17日に厚生労働省から発表された「職場のハラスメントに関する実態調査報告書」によると、従業員がパワハラやセクハラを受けていると認識した後の勤務先の対応として、パワハラでは約53%、セクハラでは約43%が「特に何もしなかった」と回答。相談された企業の対応に疑問を投げかける結果となった。企業の危機管理担当者も知っておくべきハラスメントのポイントについて、旬報法律事務所の新村響子弁護士に聞いた。
2024/07/18
-
基本解説 Q&A 線状降水帯とは何か?集中豪雨の3分の2を占める日本特有の現象
6月21日、気象庁が今年初の線状降水帯の発生を発表した。短時間で大量の激しい雨を降らせる線状降水帯は、土砂災害発生を経て、被害を甚大化させる。気象庁では今シーズンから、半日前の発生予測のエリアを細分化し、対応を促す。線状降水帯研究の第一人者である気象庁気象研究所の加藤輝之氏に、研究の最前線を聞いた。
2024/07/17
-
-
災害リスクへの対策が後回しになっている円滑なコミュニケーション対策を
目を向けるべきOTリスクは情報セキュリティーのほかにもさまざま。故障や不具合といった往年のリスクへの対策も万全ではない。特に、災害時の素早い復旧に向けた備えなどは後回しになっているという。ガートナージャパン・リサーチ&アドバイザリ部門の山本琢磨氏に、OTの課題を聞いた。
2024/07/16
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方