2016/11/10
アウトドア防災ガイド あんどうりすの『防災・減災りす便り』
4、白熱電球の知見(1)
さらに、今回はLEDではなく白熱電球が使われてしまいました。11月9日の報道では、設置した学生は、白熱電球が危険だと認識していなかったとのことです。
■学生「白熱球点灯、危険と思わず」…外苑火災
(読売新聞11月09日 07:42記事)
http://news.goo.ne.jp/topstories/nation/354/14135959f30484c8efcd936504764693.html?fr=RSS
使用されたのは、工業用の投光器の白熱電球です。防災用品としても使われることがありますので、使ったことのある方達は、どれだけ熱くなるかご存知だと思います。
でも、たとえ工業用投光器ではなくても、白熱電球が熱くなることは認識していてほしかったです。ただ、残念ながら、どれだけの人が本当に理解しているか疑問だとも思っています。
なぜなら、以前LEDの記事で書いたように、LEDで日本人がノーベル賞を受賞しているにもかかわらず、防災用の懐中電灯のイラストは相変わらず白熱電球だからです。LED=節電と理解されている方は多いですが、なぜ、どんな仕組みで節電になるのかどれだけの人が語れるのでしょうか?
■「台風が来たら、家族みんなで影絵遊び?!LEDライトを普段から楽しく使おう!」電球型の懐中電灯はNG!LEDはヘッドランプがおススメ (8月25日付リスク対策.com記事)
http://www.risktaisaku.com/articles/-/2001
白熱電球はフィラメントを高温にすることで光を発生させています。このとき、タングステンのフィラメントの温度は3000度。ガラス表面は100度〜200度に抑えられますが、エネルギーを熱のまま外に逃がしてしまうので、効率が悪く、熱くなってしまうのです。
熱くなりすぎるから効率が悪い、電池を使いすぎる、だから防災用品にも格別な理由がなければLEDの使用をお勧めしています。
先日、「まちみらい千代田」さんで講演した際、パネルディスカッションがあり、マンション理事長さんの1人が防災&節電対策として、マンション内の照明を500万円かけてLED化したと報告されていました。500万円は節電効果により2年で回収できたそうです。発熱量が減らせるため、夏の冷房代がおさえられたことが大きな要因だったそうです。
もしも、展示物内に白熱電球を設置してしまった人やそれを見た人が、防災という接点でLEDのほうが熱を発生させないと理解する機会がどこかであったならと悔やまれます。
そしてもし、こんな事件があったにも関わらず、来年1月17日阪神淡路大震災の防災特集であいかわらず白熱電球の懐中電灯のイラストが使われ続けるなら、今回の事件から何も学ばなかったといえそうでがっかりします。1月までには、改善を望みたいです。
さて、仮に防災という接点で白熱電球がどれだけ熱いか知りえなかったとしても、実は高校物理では詳しく学ぶことができるのです。
NHK高校講座
■「第33回 第2編 さまざまな物理現象とエネルギー 電気エネルギーの消費量~電力と電力量~」
https://www.nhk.or.jp/kokokoza/tv/butsurikiso/archive/resume033.html
こちらではサーモグラフィによる発熱量の違いが可視化されている実験があります。しかし、残念なことに、文系だけでなく理系であったとしても高校物理は必須科目ではありません。工学部でも物理を高校で学んでいない学生もいます。
こんな記事も
■「いまの高校生は物理が必修じゃなくなっている」 (Excite Bit コネタ 2016年6月29日 10時50分記事)
http://www.excite.co.jp/News/bit/E1467038515613.html
白熱電球がなぜ熱くなるのか、LEDは白熱電球より熱くならないが、どの部分が熱くなるのか、外からどれくらいの明るさと距離で展示物を照らせば安全か、そんなことを納得するまで理解する機会がなかったとしたら、次世代に教育として必要なことが伝えられていない気もしています。
文系・理系を問わず、物理も知っておいてほしいと思うのですが、難しいのでしょうか?もっとも、高校物理ではなくても、こどもたちの目に触れやすい児童書として、エジソンの伝記を読むと、フィラメントの話が重要な逸話としてでてきます。
数千度の高温に耐えられ、長時間発光が可能な素材を求めたエジソンが最終的に採用したものは、京都八幡の竹を炭にしたフィラメントでした。
京都の竹!と言われれば大人は記憶にとどめやすいかもしれません。けれども、こんな逸話であっても、焚き火経験がなければ、数千度や熱さのイメージがわかず、白熱電球は熱くなるのだと記憶に残らないのが今のこどもたちかもしれません。
「試行錯誤の研究を進める中、ある日エジソンは日本からのお土産として研究所にあった扇子を見つけ、その骨を使って電球を試作してみました。するとその結果、電球の寿命は飛躍的に延びました。そしてその扇子の骨こそが竹であったのです。竹は繊維が太く丈夫で、長持ちするフィラメントを作るのに最適であったのです。」(石清水八幡宮HPより引用)
http://www.iwashimizu.or.jp/story/kj.php?seq=15&category=0
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