2020/02/07
危機管理の神髄
グレートマシーンに接続する
初期の長い日々を通じて市・州・連邦からごちゃまぜの数十の機関の専門家が、保健社会福祉省、疾病管理予防センター、とくに労働安全衛生研究所(National Institute of Occupational Safety and Health)あるいはNIOSHの専門家がファーストアベニューの保健局の臨時本部に集結していた。彼らはワールドトレードセンターの現場でとりあげるべき公共衛生と労働衛生に関する問題点のリストを作成していた。
そこでわれわれは混乱状態に秩序をもたらすことを使命とする別のチームをEOCに派遣した。われわれは、現場で衛生と安全に関する仕事をする全ての組織を招集するOEMの保健医療局長であるサム・ベンソンと仕事をするよう任命された。それらの組織は、ニューヨーク市消防、ニューヨーク市警、市の設計建設局、ポートオーソリティ、ボービスと作業技術者、ベクテル社、CDC/NIOSH、OSHA、EPA、保健局、FBI他を含む多数のものであった。われわれはマルティーニ・スカイラウンジと呼んだ2階のみすぼらしい会議室で一つのチームとなり、自分たちをWTC健康安全タスクフォースと呼んだ。「作業者とファーストレスポンダーを保護し、WTC現場の地上の健康と安全の状況を改善する」という使命を全ての行動の中心においた。
われわれは24時間働き、問題を解決し、進捗状況を確認するために1日に2回会合をもった。最初は、ミーティングは騒がしかった。立席だけの部屋で、仕事と問題点のリストを当たって行くとき、建設会社の幹部、野戦服の陸軍大佐、制服のニューヨーク市消防署長、ビジネススーツの議会関係者と政府機関の幹部を含む大勢の人がそれらを把握し貢献しようとする中で、秩序を保つのに苦労した。はじめから大会議であったのがさらに大きくなり、一週間のうちに一握りのデータポイント(計測や調査で引き出された実際の情報)が数十、数百と集まってハードドライブに一杯のデータとなった。情報の管理がすぐに膨大な作業となり、保健局の数十人のスタッフが綿密な調査と分析を行ってわれわれにデータを提供してくれた。
当初は、さしあたっての生命の安全が最大の関心事であった。数百人の人が昼夜兼行でクレーン、掘削機、グラップラー(把握固定機)を使って瓦礫の山から鋼材や瓦礫のかたまりを取り除く作業をしていた。消防士は重機の横で、手で不安定な瓦礫の山を掘りくずしたり、煙の出る隙間へ降りたりしていた。重傷あるいは死亡のリスクは極めて高かった。OSHA局長のジョン・ヘンショーの言葉を借りれば、ワールドトレードセンターの現場は「米国で最も危険な職場」であった。
同時にわれわれは大気中のハザードに集中し続けた。ゲーター車に乗った安全検査官の巡回チームを現場のパトロールのために派遣した。彼らの主な職務の一つは作業者に呼吸器を付けさせることであった。
作業者はどこでマスクを装着すべきなのか混乱しているとのことだったので、それが必要な現場の周囲をかの有名な“緑の線”で示した地図を掲示した。通りや側道にも緑のペイントで線を引いた。瓦礫の山の上に水を常時散布すること、作業者や車両のための洗い場を設けることなどを含む粉塵抑制計画を策定した。
マスクはいつでもどこでも入手できるようにした。フィットテストを行うためのチームを送り込んだ。9月16日までには、現場周辺のさまざまな場所で、医師と看護師が常駐してフィットテストのための健康状態の確認を24時間行うという正式なフィットチェック計画を実施していた。
正式の注意書、パンフレット、ラミネート加工されたカード、現場への全ての入り口に取り付けた巨大なサインによる大規模な安全教育を展開した。われわれはオペレーション技術者とともに作業者にワールドトレードセンターの現場にどのようなハザード(危険)があるか、自分を守るために何をする必要があるかを知ってもらうための8時間の必修教育コースを作成した。
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方