2012/11/25
事例から学ぶ
帰宅困難者対策に、現在もっとも力を入れている企業が森ビルだ。食料20万食、アルミブランケット8万枚、帰宅困難者用のテレビ局の開局…。いずれも一般企業には真似できそうもないことだが、見習うべき点も多い。訓練や帰宅困難者を受け入れるにあたっての姿勢だ。
■子連れにはホテル提供
平日10万人の買い物客や観光客、ビジネスマンで賑わう六本木ヒルズでは、東日本大震災で帰宅困難となった多くの人々が施設内で長時間を過ごした。
ウエストウォークと呼ばれる吹き抜けの商業エリアでは、ブランド店やレストランが軒を連ねる通路に震災直後は数百人がたまっていた。さらに、49階にある多目的会議室のアカデミーヒルズにも数百人が滞留していた。
最寄りの日比谷線が夜11時ごろに復旧したため、ほとんどの人がその日のうちに帰宅できたが、森ビルでは、こうした帰宅困難者に食べ物や飲料を提供したり、小さな子供を連れている家族にはグランドハイアットホテルの部屋を提供するなどの対応にあたった。
『逃げ出す街から、逃げ込める街へ』
森ビルが掲げる再開発のコンセプトだ。同社震災対策室事務局長の佐野衆一氏は「震災があっても決して来訪者を閉め出すようなことはせず、可能な限り受け入れる」と言い切る。
六本木ヒルズでは、帰宅困難者用に5000人の食料を3日分、計4万5000食(5000×3食×3日)備蓄をしている。このほかテナントや従業員、ホテルの宿泊客、マンションの居住者用の非常食を含めるとヒルズ全体で10万食、その他の森ビル所有のビルまで含めると全体で実に20万食にもなるという。
水は1食あたり500ミリリットルを備蓄しているが、内閣府と東京都でつくる首都直下地震帰宅困難者等対策協議会が今年9月に発表した最終報告では1日3リットルが目安として示されたため、今年度中には倍増させる計画だ。地下水を汲み上げる設備もあり、水道が使えなくなった際の雑用水として使うことができるほか、濾過装置で飲料水にすることも可能だ。
食料や水の有効賞味期限は5年間。拠点ビルに保管しているが、同社では、イントラネット上の災害ポータルサイトで、どこの倉庫に何食分あるのか、いつ賞味期限をむかえるかなどを管理している。毎年、期限を迎える半年前にNPO法人を通じて全国の福祉施設などに提供しているという。
このほかアルミブランケット8万枚、簡易トイレ12万枚…と想定する受け入れ者数を大幅に上回るものもある。「帰宅困難者はずっと同じ場所に滞留するのではなく、一晩だけ泊まって、朝になったら自宅に向かって歩き出すような人が実際には多いと思う。そういう一時滞留者、あるいは近隣の人たちにも、可能な限り提供できるようにしている」と佐野氏は説明する。
事例から学ぶの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/21
-
「防災といえば応用地質」。リスクを可視化し災害に強い社会に貢献
地盤調査最大手の応用地質は、創業以来のミッションに位置付けてきた自然災害の軽減に向けてビジネス領域を拡大。保有するデータと専門知見にデジタル技術を組み合わせ、災害リスクを可視化して防災・BCPのあらゆる領域・フェーズをサポートします。天野洋文社長に今後の事業戦略を聞きました。
2025/10/20
-
-
-
走行データの活用で社用車をより安全に効率よく
スマートドライブは、自動車のセンサーやカメラのデータを収集・分析するオープンなプラットフォームを提供。移動の効率と安全の向上に資するサービスとして導入実績を伸ばしています。目指すのは移動の「負」がなくなる社会。代表取締役の北川烈氏に、事業概要と今後の展開を聞きました。
2025/10/14
-
-
-
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方