2012/11/25
事例から学ぶ
平時から多くの買物客で賑わう百貨店では、災害時、従業員の安全に加え、顧客の安全を確保することが責務となる。東日本大震災で被災を経験した仙台市に本社・本店を置く百貨店「藤崎」(仙台市青葉区)に、震災での緊急対応と今後のBCP対策の取り組みについて取材した。
■現場力で速やかに対応
藤崎は、今年で創業193年を迎えた仙台市発祥の東北を代表する老舗百貨店。青葉区にある本店は、本館、大町館、一番町館、ファーストタワー館という4つの建物で構成され、売り場面積は東北地方で2番目の広さの3万2000平米に及ぶ(図1)。本館は、昭和7年に建設され、その後増築を繰り返し、大きく4つの建物をつなぎ合わせた複雑な構造になっている(図2)。このほか、気仙沼市や石巻市、県外など十数カ所にも小規模店舗を持つ。
2011年3月11日の東日本大震災の発生時、仙台市青葉区は、震度6強の揺れに見舞われた。震災当日、本館では、特別セール期間であったため、買物客だけで約3500人、従業員も約1000人がいた。各フロアで多くの陳列品が落下する被害が見られたが、従業員が買物客に陳列棚から離れるように呼びかけるなど適切に指示したことで負傷者を1人も出すことなく、速やかに屋外に避難誘導した。 「日頃の防火・防災訓練が生きた。震災発生と同時に、安全な行動を促す館内放送が流れ、各フロアの従業員が一丸となってお客様を避難場所へと誘導した」と同社CSR室部長の庄子直氏は話す。
藤崎では、毎年2回の防火・防災訓練を実施している。主に大規模地震と火災を想定したものだが、従業員が買物客を演じて、出口に一斉に走り出そうとするのを、自衛消防隊がパニックによる2次災害が発生しないように店外の安全を確認した上で屋外に誘導するなど、顧客の安全確保には特に力を入れる。エレベーターやエスカレーターは使わず、避難階段を利用するのも鉄則だ。 同社が屋外に設置している避難階段は、非常時の通行を考慮し、幅5.7メートルと通常ビルと比較してかなり広くなっている。
「震災時にも、訓練同様、ほとんどの買物客がこの階段から避難したが、混み合って動けなくなるようなことはなかった」(庄子氏)。 従業員が迅速に的確な対応を実現できたことのもう1つの理由は、これまでの災害対応の経験がある。宮城県では1978年6月に発生した宮城沖地震や、2003年5月の三陸南地震、同年7月の北部連続地震、さらには2005年の8・16宮城地震、2008年の岩手・宮城内陸地震など大規模な地震が多発している。「従業員の中には宮城沖地震や2010年のチリ沖地震の影響による津波の避難対応を経験した人もいる。特に、宮城県沖地震の際には、藤崎の建物も被害を受けたこともあり、こうした体験が社内に伝承されていた」と庄子氏は話す。
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