すでに不顕性感染を引き起こしていた鶏も

大阪府でCOVID-19に罹患し入院した人が、いったん回復してPCR反応も陰性を示したけれど、再び発病してPCR反応も陽転したという報道がなされています。中国でも多くの罹患者で認められている再発です。

これらの人に別のウイルスが新たに再感染したのか、それともウイルスが体内から完全に消滅していなかったために何らかのストレスが回復者に加わり、再びウイルスが活発な増殖を始めたのか、原因はいろいろ考えられますが、この点について、筆者は興味ある所見をIBウイルス研究で得ています(40年以上前の成績になりますが)。

養鶏産業におけるIB予防に向け、IB生ワクチンの製造・販売・使用が国内で最初に認可される直前の1972年春、筆者は鳥取県内の養鶏場をめぐりました。そして外見上健康な産卵中の鶏から採血し、血清中のIBウイルス抗体保有状況を、抗原性の異なる4株のIBウイルス株を用い、ウイルス中和試験(※)によって調べました。つまりIBワクチンが使用されていない時代に、IBウイルス野外株が養鶏場内の鶏にどの程度侵入して感染を起こしていたのか、その実態を調べたのです。

検査したいくつかの養鶏場では不顕性感染の鶏も(写真:写真AC)

結果、検査したいくつかの養鶏場では、飼育されている鶏がIBウイルス抗体陽性を示しました。すなわち、野外株のIBウイルスはいくつかの養鶏場にすでに侵入しており、不顕性感染(またはそれに近い軽微な感染)を引き起こしていたことが判明したのです。

1970年代当初、IBに罹患した鶏に発現する臨床症状は、重篤な呼吸器症状をともなう産卵率の激減が典型的なものでした。筆者も実際にIB発生に遭遇し、公的機関から診断を依頼された経験を持っていますが、肉眼所見でも、呼吸器のほか泌尿器(腎臓)、消化器(腸管)、生殖器(卵巣)に明らかな病変が認められ、IBは単なる呼吸器性疾患ではなく、病原体のIBウイルスも複数の臓器に親和性を持ち、複雑な病原性を示す全身性の疾病で、制圧は容易ではないという認識を持っていました。

また、いったんIBウイルスが養鶏場内に侵入すると、瞬く間にほとんどすべての鶏にIBが発生してしまうのが常でした。このウイルスは、少なくとも狭い空間では、鶏から鶏への伝播力が極めて強い特徴を持っています。発生の起きた養鶏場は、大きな経済的損害を被っていました。

※ウイルス中和試験:ウイルスと抗体を反応させたあと、鶏などに接種し、ウイルスが抗体によって不活化されたか否かを調べるもの。未知のウイルスがどのウイルスグループに属するかを決めたり、ウイルス感染によって鶏などの血清中にどのくらいの中和抗体が出現したかをみたりするために用いられる。