感染に有効なワクチンは開発できるのか

これまで述べてきたように、筆者たちは1970年代当初より、鳥類のコロナウイルス感染病であるIBの予防に用いられるIB生ワクチンの有効性に疑念を持っていました。

一方、今回のCOVID-19の予防に対してワクチン開発の道が開かれ、実用に向けた研究が急いでなされているという報道が出ています。アメリカのワクチンメーカーでは、mRNAワクチンの開発研究が急ピッチで進められているようです。

COVID-19ワクチンの開発に、筆者には気がかりなことがあります。2003年に同じコロナウイルス感染によるSARSが流行した時にも、予防のためのワクチン開発が中国で鋭意なされているという報道があったことを記憶していますが、ワクチン開発に成功したという話を現在まで聞いていません。

コロナウイルス感染病のワクチン開発は難しいのか(写真:写真AC)

さらに昨年暮れ、SARSに類似した呼吸器病(COVID-19)が中国で発生したという報道があった時にも、SARSワクチンを使用して予防対策が実施されたという情報はどこからも出てきませんでした。少なくとも中国では、SARSワクチンの開発にはいまだ成功していないと筆者は推測しています。もし成功していれば、肺炎が発生し病原体がSARSウイルスに類似したコロナウイルスによるものであることが判明した時点で、SARSワクチンが広く用いられてもよかったはずです。

コロナウイルス感染病のワクチン開発には困難がともない、容易には成功しないのではないかと筆者は推測しています。

養鶏分野でも新しいコロナウイルスワクチンの開発研究が進められているが(写真:写真AC)

コロナウイルス病ワクチンに関して筆者は、印象深い思い出があります。1988年に文部省(当時)長期在外研究員として英国のHoughton Laboratoryで1年弱IB研究に従事したのですが、そこでは、新しいタイプのIBワクチン開発を行っていました。端的にいえば、IB遺伝子を持った鶏痘ワクチンの開発です。養鶏界では孵化直後のヒナに必ず鶏痘ワクチンを接種することになっているため、IB遺伝子を組み込んだ鶏痘ウイルスをヒナに接種すれば、IBウイルス抗体も同時に接種ヒナの体内で産生されることになるのです。

しかし、この画期的なワクチンの開発に成功したという報告を、現在に至るまで聞いていません。同じRNAウイルスであるパラミクソウイルス科のニューカッスル病ウイルス遺伝子を組み込んだ鶏痘ワクチンの開発は成功したのに、なぜコロナウイルスであるIBウイルスではできなかったのか、長い間不思議に思っています。

一方、従来型のIB生ワクチンはさまざまな種類が世界中で開発され、販売されています。しかしワクチン接種によるIB発生の予防効果は依然として十分ではなく、いまだIBは制圧されていません。その理由として、生ワクチンに使用されているIBウイルスの抗原性と野外でIBを引き起こしているウイルスの抗原性の不一致、あるいはウイルス遺伝子の相同性の低さがあげられています。

ただ、筆者は以前からこの理由づけに疑問を持ち、IBウイルスの性状をより明らかにするために独自の角度から研究を実施しました。その結果、IBウイルスがさまざまな変異を起こすことを最初に実験的に証明し、IBウイルスが持続感染を起こすことも明らかにしました。鳥類のコロナウイルスであるIBウイルスは、他のウイルスと異なるユニークな性状を持っているのです。