2020/03/06
知られていない感染病の脅威
コロナウイルス感染病は2度罹り、3度罹りする
筆者たちが鳥取県内の養鶏場で実施したIBウイルス抗体調査成績は、野外に分布するIBウイルスの鶏に対する病原性の強さに、重篤な臨床症状を引き起こすものから不顕性感染に終始するものまで、大きな幅があることを示唆しています。
IBウイルス抗体陽性を示したC採卵養鶏場における成績をまとめたものが図1です。この結果を血清疫学的に分析したところ、大変興味深い所見が認められました。
図1のグラフは、ウイルス中和試験に用いたウイルス株4株のうち、国内で分離されたKH株(グラフの▲)を中心に作成したもの。KH株に対する抗体が認められなかった鶏から、最も高い抗体価を示した鶏まで、順番に並べています。そこに、各鶏の血清中に認められた他の3株のIBウイルス株に対する抗体価を重ねて書き入れました。
これを見ると、それぞれの鶏の血清中のKH株に対する抗体価と他のウイルス株に対する抗体価は、必ずしも連動していません。むしろ、それぞれ独立していることが分かります。また、残りの3株間の抗体価も連動していません。以上のことから下記に示す事柄が推察され、同時に疑問も生じました。
(1)この養鶏場には、過去に、抗原性の異なる病原性の弱いIBウイルスの侵入が度々起きていた。
(2)この養鶏場に侵入したIBウイルスは、そのつど鶏に感染することができ、侵入したIBウイルスごとにそのウイルスに対する抗体を感染鶏は産生した。すなわち、この養鶏場で飼育されている鶏には、IBウイルスの2度罹り、3度罹りが起きていた。
(3)それでは、過去に感染したIBウイルスに対して産生された鶏の血清中の抗体は、次に侵入したIBウイルスに対する感染防御作用を示すことはなかったのか? このような2度罹り、3度罹りが起きる奇妙な現象は、鳥類のコロナウイルスであるIBウイルス以外のウイルスでも、通常起きるのであろうか?
(4)近々使用が解禁になるIB生ワクチンに期待されるワクチン効果は何か? IB生ワクチンが有す、野外から侵入する病原体のIBウイルスに対する感染防御には、どのようなメカニズムが働くのか?しかし、ワクチン効果の程度は? 野外株による2度罹り、3度罹りが起きていることを勘案すると、IB生ワクチン接種によるワクチン効果はあまり期待できないのではないか?
40年以上前に筆者たちが得た結果から、今回大阪で起きたPCR再陽転化の理由として別のコロナウイルスの再感染があったことは、可能性は低いものの完全には否定できません。もっとも、COVID-19ウイルスの持続感染が起きていたため再発があったと考えるのが最も自然ではありますが。
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方