2017/04/11
熊本地震から1年

京都大学大学院理学研究科附属地球熱学研究施設火山研究センター教授の大倉敬宏氏は、4月16日未明のいわゆる本震とされる揺れを阿蘇山の麓にある火山研究センターの中で経験した。天井や壁が崩落し、さらに研究センターの周辺で多数の土砂すべりが発生。アクセス道や通信インフラが途絶える中、被災した地域住民を支援しながらも、現地で観測活動にあたった。大倉氏に、当時の状況や観測活動継続に向けた取り組みを聞いた。
吹っ飛ばされるような強い揺れ

14日午後9時半頃の前震と呼ばれる揺れが起きた時は、阿蘇山の麓にある火山研究センターで、霧島の観測データの整理をやっていました。緊急地震速報は鳴らず、突然、大きな揺れを感じました。ただ、研究センターがあった地域は震度5 弱の揺れで、机の上の物が少し落ちたり本棚の本が数冊落ちる程度で大した被害は出ておらず、電話も電気も普通に使えました。
揺れが収まってから九州大学に電話をして、余震観測をするのかすぐに話し合いました。これまでも九大と共同で地震観測をしていましたし、より詳細なデータを取るために、観測点の1つをオフライン観測からリアルタイムに切り替えられないかと考えていました。
一旦家に帰りましたが、すぐに研究センターに戻り、結局その日はそこに泊まりました。
翌日も、もう1泊研究センターに泊まることにしました。朝からリアルタイムの観測点のメンテ作業や御嶽山での水準測量の準備をしようと思ったからです。センターにいたのは私だけで、4階に一人で寝ていていたのですが、ちょうど眠りについた頃、本震が起き、ドカーンと吹っ飛ばされたという感じで目が覚めました。
ひどい光景に絶句
寝ていた部屋は、普段、学生を泊められるよう本棚などを置かないようにしていので、幸い大きなものが倒れてくるような被害もなく、ケガもしませんでした。枕元においていた懐中電灯と携帯電話を持って1階に下りようとしたのですが、非常用発電機がすぐに動いたようで、電気はついていました。ただし、非常ベルがずっと鳴り響いていて、どこかで火事が起こっていたら嫌だなと思いながらゆっくり下りていきました。ひどい物の散らかりようで、2階にはコンクリートの破片まで落ちていたので「うわー」と思って1階まで行ったら、さらにひどい光景で絶句しました。天井を通っていた水道管が破裂して水浸しで、床も変形していました。とりあえず外に出ようと思ったら、正面のドアが開かない。建物が倒壊するかもしれないという不安もありましたし、すぐに裏口から外へ出ました。

コーヒーを飲んで冷静に
外にはガレージがあって、そこでは電源も使えるので、電気をつけて一息ついて、まず家に電話して無事だということを伝え、九大にも電話をしました。「震源断層が日奈久から布田川断層までいったかな」というような話をしていたかと思います。
幸い、非常用のアルファ米とか、水などが配給されていましたし、電気ポットがすぐ取り出せたので、ガレージでお湯を沸かしてコーヒーを飲んで「ああ、これでちょっと冷静になれる」と思ったのを覚えています。
所員の状況については、助教の横尾亮彦さんが大津町に住んでいたので、電話をして「そっちを中心にしてやってくれ」と依頼し、結果、朝方の4時までに全員の無事が確認できました。
建物の明かりに人が集まる
そんな中で、2時50分頃には、近所の方とお会いしました。もしものために、棟の電気とか廊下の電気を全部つけていたのですが、その明かりを見て、下の住民の方が上がってきたのです。65歳ぐらいの方でした。自宅が倒壊して挟まれ動けなかったが、余震で隙間ができたので脱出し、建物の明かりを見て、斜面をそのまま上がって来たというのです。後から知ったことですが、センターの周辺で地滑りが多数発生していて、アクセス道は完全に閉ざされていました。その時点で、携帯メールや電話で、阿蘇大橋が落ちたという情報も入っていました。
その方は、犬を連れて上がってきたのですが、もう1匹の飼い犬は死んでしまって、さらに「90歳のお母さんがまだ家の中に閉じ込められたままだ」とおっしゃったので、すぐに横尾さんに救急要請をしてくれと連絡をしました。その方には、落ち着いてくださいということで毛布をあげたり、ガレージで暖まってもらい、犬にも餌をあげたりしました。
その後も、別の2人の方に出会いました。冒頭の写真のように家が地滑りにより65m 流されてしまったものの幸いつぶれなかったのですが、ご主人が持病を持っておられるということで、再び横尾さんに救急要請の追加のお願いで連絡をしました。
熊本地震から1年の他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方