2020/03/25
知られていない感染病の脅威
4.IBウイルスを接種したヒナの胆汁中での抗体産生
筆者たちは、IBウイルス鹿児島―34株が2週齢および6週齢ヒナにこのウイルス株を接種し、定期的に胆汁中に出現した抗体を測定しました。
肝臓でつくられた胆汁の一部は胆嚢内に貯留します。それとは別に、総(腸)胆管より十二指腸に排出される粘度の少ない胆汁があります。後者の胆汁を、手術を施して採取し、この胆汁中のIBウイルス抗体の動態を調べました。すなわち、血液中の抗体ではない別の系統である門脈系の抗体産生状況についても調べたのです。胆汁中には消化管感染を引き起こしたウイルスなどの病原体に対する抗体が出現し、血液中に出現する抗体とは別の動態を示します。
この実験では、血中抗体動態との比較を行いました。その結果、興味深い成績が得られました。
[図2]にまとめて成績を示しましたが、血清中の抗体がウイルス接種後3週目から出現したのに比べ、胆汁中の抗体はウイルス接種後2週目から出現しました。その抗体価は高く、しかも長期間維持されました。2週齢時にウイルス接種したヒナでも、6週齢時に接種したヒナに近い胆汁中の抗体産生が認められる場合がありました。

この成績から、腸管下部の粘膜細胞でIBウイルスの増殖は継続し、そのウイルス増殖に反応する胆汁抗体も持続して産生され、増殖したウイルスを腸管内である程度中和することにより、ウイルスの爆発的な増加を防ぐことによる軽微な腸管内の持続感染が成立した可能性が示唆されました。
一方、2週齢時接種ヒナの血清中の抗体が比較的早期に消失したのは[図2]、呼吸器でのウイルスがウイルス接種後14週目に検出されなくなったことが関与しているのかもしれません。筆者たちは、さらに涙液、唾液、気管洗浄液などに産生された抗体についても同様に経時的に調べました。しかし、抗体は産生されましたが抗体価性はあまり高くなく、2週齢時接種ヒナと6週齢時接種ヒナの間には明瞭な差異は認められませんでした。
パンデミックを早期に終わらせるために
以上紹介した鳥類のコロナウイルスであるIBウイルスの実験成績から、今回の新型コロナウイルス性肺炎罹患者でも、類似する現象が起きている可能性があるように思われます。新型コロナウイルス性肺炎患者に再発(再燃)が起きる原因の一つとして、持続感染が起きている可能性を考慮する必要があります。
残念ながら、目下のところ、今回の新型コロナウイルスは、ごく限られた研究機関でしか、患者から分離されていません。したがって、不顕性感染を起こしているウイルス感染者を含む罹患者に、どの程度の持続感染が起きているのかを突き止めることは現状では不可能です。
また、罹患者がどの程度の力価の新型コロナウイルス抗体を保有しているのか、不顕性感染を起こしている人と重症化した人の抗体価を調べることができる状況でもありません。不明のまま残されています。
新型コロナウイルス性肺炎に罹患して回復した患者については、回復後、ウイルスが体内から消失したことを確認し、再発するおそれを心配しなくてもよいように、1カ月程度は注意深く観察する必要があると思います。健康に異変が生じた場合、直ちに医療機関を受診することが肝要です。また高齢者、基礎疾患を持った人、幼児の近くで生活している場合、特に慎重に衛生面に気を配る必要があると考えます。
どこで新型コロナウイルスに感染したのか特定できない、感染経路の不明なウイルス感染者が今後増えることも予想されます。その場合、トイレを使用する際の感染も起きている可能性もあります。コロナウイルスは、消化器感染や泌尿器感染を引き起こすことが可能なウイルスです。
知られていない感染病の脅威の他の記事
おすすめ記事
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
-
-
生コン・アスファルト工場の早期再稼働を支援
能登半島地震では、初動や支援における道路の重要性が再認識されました。寸断箇所の啓開にあたる建設業者の尽力はもちろんですが、その後の応急復旧には補修資材が欠かせません。大手プラントメーカーの日工は2025年度、取引先の生コン・アスファルト工場が資材供給を継続するための支援強化に乗り出します。
2025/04/14
-
新任担当者でもすぐに対応できる「アクション・カード」の作り方
4月は人事異動が多く、新たにBCPや防災を担当する人が増える時期である。いざというときの初動を、新任担当者であっても、少しでも早く、そして正確に進められるようにするために、有効なツールとして注目されているのが「アクション・カード」だ。アクション・カードは、災害や緊急事態が発生した際に「誰が・何を・どの順番で行うか」を一覧化した小さなカード形式のツールで、近年では医療機関や行政、企業など幅広い組織で採用されている。
2025/04/12
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方