4.IBウイルスを接種したヒナの胆汁中での抗体産生

筆者たちは、IBウイルス鹿児島―34株が2週齢および6週齢ヒナにこのウイルス株を接種し、定期的に胆汁中に出現した抗体を測定しました。

肝臓でつくられた胆汁の一部は胆嚢内に貯留します。それとは別に、総(腸)胆管より十二指腸に排出される粘度の少ない胆汁があります。後者の胆汁を、手術を施して採取し、この胆汁中のIBウイルス抗体の動態を調べました。すなわち、血液中の抗体ではない別の系統である門脈系の抗体産生状況についても調べたのです。胆汁中には消化管感染を引き起こしたウイルスなどの病原体に対する抗体が出現し、血液中に出現する抗体とは別の動態を示します。

この実験では、血中抗体動態との比較を行いました。その結果、興味深い成績が得られました。

[図2]にまとめて成績を示しましたが、血清中の抗体がウイルス接種後3週目から出現したのに比べ、胆汁中の抗体はウイルス接種後2週目から出現しました。その抗体価は高く、しかも長期間維持されました。2週齢時にウイルス接種したヒナでも、6週齢時に接種したヒナに近い胆汁中の抗体産生が認められる場合がありました。

写真を拡大 [図2]鹿児島-34株接種ヒナの血清中(左側)および胆汁中(右側)のウイルス中和抗体の産生状況(●は2週齢ヒナ、○は6週齢ヒナ。実験は2回実施した)

この成績から、腸管下部の粘膜細胞でIBウイルスの増殖は継続し、そのウイルス増殖に反応する胆汁抗体も持続して産生され、増殖したウイルスを腸管内である程度中和することにより、ウイルスの爆発的な増加を防ぐことによる軽微な腸管内の持続感染が成立した可能性が示唆されました。

一方、2週齢時接種ヒナの血清中の抗体が比較的早期に消失したのは[図2]、呼吸器でのウイルスがウイルス接種後14週目に検出されなくなったことが関与しているのかもしれません。筆者たちは、さらに涙液、唾液、気管洗浄液などに産生された抗体についても同様に経時的に調べました。しかし、抗体は産生されましたが抗体価性はあまり高くなく、2週齢時接種ヒナと6週齢時接種ヒナの間には明瞭な差異は認められませんでした。

パンデミックを早期に終わらせるために

以上紹介した鳥類のコロナウイルスであるIBウイルスの実験成績から、今回の新型コロナウイルス性肺炎罹患者でも、類似する現象が起きている可能性があるように思われます。新型コロナウイルス性肺炎患者に再発(再燃)が起きる原因の一つとして、持続感染が起きている可能性を考慮する必要があります。

残念ながら、目下のところ、今回の新型コロナウイルスは、ごく限られた研究機関でしか、患者から分離されていません。したがって、不顕性感染を起こしているウイルス感染者を含む罹患者に、どの程度の持続感染が起きているのかを突き止めることは現状では不可能です。

また、罹患者がどの程度の力価の新型コロナウイルス抗体を保有しているのか、不顕性感染を起こしている人と重症化した人の抗体価を調べることができる状況でもありません。不明のまま残されています。

新型コロナウイルス性肺炎に罹患して回復した患者については、回復後、ウイルスが体内から消失したことを確認し、再発するおそれを心配しなくてもよいように、1カ月程度は注意深く観察する必要があると思います。健康に異変が生じた場合、直ちに医療機関を受診することが肝要です。また高齢者、基礎疾患を持った人、幼児の近くで生活している場合、特に慎重に衛生面に気を配る必要があると考えます。

どこで新型コロナウイルスに感染したのか特定できない、感染経路の不明なウイルス感染者が今後増えることも予想されます。その場合、トイレを使用する際の感染も起きている可能性もあります。コロナウイルスは、消化器感染や泌尿器感染を引き起こすことが可能なウイルスです。