2020/03/25
知られていない感染病の脅威
1.週齢の異なるヒナに接種した場合発現する臨床症状
1980年代に重篤な腎炎により死亡した鹿児島県の鶏の腎臓から筆者たちが分離したIBウイルス鹿児島―34株を、実験に供しました。
ウイルスを孵化後2、4、6週目のSPF(Specific Pathogen Free:特定の病原体に感染していない無菌的な特別の)ヒナの気管内に接種し、20週間経過を観察。ウイルス接種ヒナの健康状態をチェックし、定期的に糞を採取、採血も行いました。採取した糞からのIBウイルス回収を行い、血清中のIBウイルス抗体の消長も調べ続けました。

その結果[表1]に示すように、鹿児島―34株接種により、ヒナには呼吸器症状と下痢が発現しました。興味深いことに、呼吸器症状はウイルス接種後3日後からすべての日齢のヒナに約1週間後まで続き、後は14週後まで時折発現しました。
症状は比較的軽微で、接種時の週齢が違っても呼吸器症状の程度に明らかな差異は認められませんでした。以上の結果から、IBウイルスは、主要な標的臓器である呼吸器において持続感染する性質を持つことが伺われました。
一方、下痢便の排出は、接種時の週齢の違いにより明らかな差異が生じました。すなわち、2週齢接種ヒナでは3日目から3週間下痢が続き、さらに接種後19週間後まで4カ月以上の長きにわたって継続的に軽微な下痢が続きました。

他方4および6週齢接種ヒナでは、接種した翌日から下痢が認められました。4週齢接種ヒナでは4日間下痢が続きましたが、6週齢ヒナではその1日目のみでした。4および6週齢接種ヒナでは、2週齢時接種ヒナの場合と異なり、観察が終了するまで、稀に下痢が認められる程度でした。特に6週齢時接種ヒナは極めて軽微な下痢が発現したのみで、2週齢時接種ヒナの場合と大きな違いが出ました。
産毛のままの2週齢ヒナの消化器の免疫機能は、羽根の生え変わった6週齢ヒナに比べ、あまりに未発達であったため、このような大きな差異が生じたと筆者たちは考えました。鶏では、免疫機能の衰える老齢化の進んだ個体を用いる実験室内の実験は、実際にはほとんど不可能です。したがって老齢の鶏を用いての感染実験を行うことはできませんでしたが、おそらく老齢の鶏では、孵化して間もない幼若の2週齢ヒナと同じような経過をたどるのではないかと推測しています。
この実験から、IBウイルスはヒナに長期間におよぶ持続感染を起こすウイルスであることが強く示唆されました。
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