サイバーセキュリティーの文書化も増加傾向

図2はサイバーセキュリティーに関連する文書化の状況を表すデータである。上の段はサイバーセキュリティーに関する内容を含む正式な(つまり文書化された)ポリシー(注2)がある組織、下の段は事業継続計画がある組織の割合である。2019年版と比べると全体的に増加傾向であるが、こちらでも特に慈善団体における伸びが目立ち、2018年版から順に21%→36%→42%と増加している。

企業全体(Businesses overall)でも 2018年版から順に27%→33%→38%と着実に増加しているが、企業規模別に見ると「Within small firms」(小規模事業者)(注3)における増加が大きく、前回の46%から13ポイント上昇して59%となっている。

写真を拡大 図2. サイバーセキュリティーポリシーや事業継続計画を持つ組織の割合(出典:英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省 / Cyber Security Breaches Survey 2020)

なお図は省略されているが、業種別に見ると金融業、保険業、保健・介護業において、サイバーセキュリティーに関するポリシーが文書化されている割合が高くなっている。

保険内容はあまり把握できていない?

図3はサイバーセキュリティーに関する損害保険の契約内容を尋ねた結果である。「Insurance against lost earnings or profits」(逸失収益に対する保険)がカバーされている割合が企業において高く、一方で「Help with reputation management following a breach」(情報漏洩後のレピュテーション・マネジメントに関する支援)が付帯されている割合が慈善団体において高くなっている。

写真を拡大 図3. 現在のサイバーセキュリティー保険でカバーされている内容(出典:英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省 / Cyber Security Breaches Survey 2020)

ところが本報告書において、損害保険に関して問題意識を持たれているのは、図3の各選択肢に対して「分からない」という回答がそれぞれ2割から4割程度あったことである。例えば「Help with forensic analysis of breaches」(情報漏洩のフォレンジック分析に関する支援)については43%が、現在の損害保険でカバーされているか「分からない」と回答しているという。これはサイバーセキュリティー担当部門と損害保険契約の担当部門が異なることに起因する可能性もあるが、いずれにしても対策の実施状況が組織として把握できていないという問題は解消していく必要があろう。読者の皆さまの組織ではいかがであろうか?

本報告書では他にも、個人所有のデバイスの利用(いわゆるBYOD)や業務の外部委託に関する問題、サイバーセキュリティーに関するノウハウを持つ人材の確保など、多くの観点からの調査結果が含まれている。自らの組織における対策状況を本報告書と照らし合わせてみると、現在の対策状況を網羅的に見直すことに役立つと思われるので、多くの皆様にアクセスしていただければと思う。

■ 報告書本文の入手先(PDF 58ページ/約1.1MB)
https://www.gov.uk/government/statistics/cyber-security-breaches-survey-2020

注1)第73回:GDPR導入後の英国におけるサイバーセキュリティーの実態
英国デジタル・文化・メディア・スポーツ省 / Cyber Security Breaches Survey 2019
https://www.risktaisaku.com/articles/-/18239 

注2)「policy」は「方針」と訳されることが多いが、筆者の知る限り少なくとも英語圏の国においては、「policy」には方針だけでなく、適用範囲、役割と責任、予算措置などが規定され、日本企業における基本規程に近い内容となることが多いようである。したがって、本稿ではあえて「ポリシー」と表記させていただいた。

注3)本調査では従業員数が10人から49人までの企業を「small businesses」と定義している。