2020/05/03
WITHコロナのBCP
人類が初めて経験する「現代的パンデミック」

終息の気配が見えない新型コロナウイルス。外出や移動の自粛、店舗の休業で街の姿は一変、人の行動や価値観の変化は今後の社会のあり方にも影響を与えそうだ。人類は過去に幾度も感染症の脅威にさらされてきたが、パンデミックのような破局的な出来事は、そのたびに大きな社会変革のきっかけになってきた。いま何が起きているのか、歴史から学べることは何か。開発途上国で感染症対策に従事し、人間とウイルスの「共生」を説く長崎大学熱帯医学研究所の山本太郎教授に聞いた。(本文の内容は4月8日取材時点の情報にもとづいています)
https://bcp.official.ec/items/28726465
対策の目的は流行の速度を遅らせること
――新型コロナウイルスはどう終息するのですか。
一つは有効なワクチンができる。もう一つは何回か流行の波が来て6割~7割の方が感染し、集団免疫を獲得する。そうでなければ、最終的な意味での「終息」には至らないでしょう。
――その間に感染した人の治療はどうなりますか。
一般論ですが、治療がどうなるかは医療資源と感染者数の関係で決まると思います。すべての感染者を病院で治療できるならそれでもいいですが、医療資源が不足してきたら、重症者から先に診ざるを得ません。軽症や無症状の人は自宅療養にならざるを得ないでしょう。
――当面感染が続くのであれば、外出や移動の自粛、店舗の休業といった対策にどんな意味があるのでしょうか。
ウイルスを撲滅できる局面は超えてしまいましたが、流行のスピードを遅らせることはできる。それは極めて重要なことです。
一つは、医療崩壊を防ぎワクチン開発までの時間を稼ぐ。短期間で大量の患者が発生すると医療資源が一気に不足し、重症者さえ診られなくなってしまいますが、流行の速度が遅ければキャパシティーの範囲内で対応できます。感染が拡大しているいまは、まず罹らないことが重要です。
もう一つは、ウイルスの弱毒化。流行の速度が速いというのは、次々に宿主が見つかる状態ですから、それだけ強毒のウイルスが選択される可能性も高い。しかし流行の速度が遅いと、ウイルスは宿主を大切にしないと生き残れません。それが反強毒化への淘汰圧になります。
――強毒化ということでは、100年前に世界で死者5000万人~1億人を出したといわれる「スペイン風邪」の場合、第一波より第二波の致死率が高かったと聞きます。今回の新型コロナウイルスも強毒化のおそれがありますか。
わかりません。スペイン風邪は流行初期に第一次世界大戦が勃発、兵士や物資が欧州だけでなく植民地からも動員され、前線では密集が起きました。こうした体制が第一波の流行速度を速め、それが強毒性ウイルスの選択圧として働き、第二波の致死率を高めた可能性が高い。
では、今回の新型コロナウイルスはどうなるかというと、スペイン風邪のときとは状況が違います。ただし、どうなるかは本当の意味ではわかりません。
WITHコロナのBCP の他の記事
おすすめ記事
-
津波による壊滅的被害から10年
宮城県名取市で、津波により工場が壊滅的な被害に遭いながらも、被災1週間後から事業を再開させた廃油リサイクル業者のオイルプラントナトリを訪ねた。同社は、東日本大震災の直前2011年1月にBCPを策定した。津波被害は想定していなかったものの、工場にいた武田洋一社長と星野豊常務の適切な指示により全員が即座に避難し、一人も犠牲者を出さなかった。震災から約1週間後には自社の復旧作業に取り掛かり、あらかじめ決めていたBCPに基づき優先業務を復旧させた。現在のBCPへの取り組みを星野常務に聞いた。
2021/01/21
-
台湾をめぐる米中の紛争リスクが高まる
米国のシンクタンクCouncil on Foreign Relations(CFR)は、2021年に世界中で潜在的な紛争が起こる可能性を予測する最新の報告書を公表した。報告書は、台湾問題における米国と中国の深刻な危機を、世界の潜在的な紛争の最高レベルとして初めて特定した。
2021/01/20
-
これからの国土づくり 「構想力」と「創意工夫」で
政府の復興構想会議のメンバーとして東北の被災地を訪ね、地域の再生や強靭な国土づくりに多くの提言を行った東京大学名誉教授の御厨貴氏は当時、これからの日本の行方を「戦後が終わり、災後が始まる」と表現しました。あれから10年、社会はどう変わったのか。いつか再び起こる巨大地震をめぐり、政治・行政システムや技術環境、市民の生活や仕事はどう進歩したのか。これまでを振り返ってもらいながら、現在の課題、今後の展望を語ってもらいました。
2021/01/14