6月16日、リスク対策.comは独立行政法人と特殊法人の情報セキュリティ担当者向けに、サイバーセキュリティ対策セミナー(共催:TIS株式会社)を開催した。

TIS プラットフォームサービス事業部 エンタープライズセキュリティサービス部 シニアエキスパートの三木基司氏は、「早めにCSIRTを立ち上げた企業はそれから2~3年は経っていて、これからは構築から運用に変わりつつある。CSIRTは立ち上げてからが大変だ。これから作るところも運用を視野に入れてほしい」と述べた。

TIS プラットフォームサービス事業部 エンタープライズセキュリティサービス部 シニアエキスパートの三木基司氏

日本シーサート(CSIRT)協議会の加盟社も2014~15のわずか1年間で59から95に一気に増えている。情報処理推進機構(IPA)の調査で量的・質的充足度で約5割が「やや不足している」と回答し、しかも経営層ほど「十分であると答える傾向が高いことから、三木氏は「ギャップが大きいのは、現場から上に上がらない、封じ込められている意見が多いのではないか」と分析した。

また、運用には「大きなCSIRT」と「小さなCSIRT」が必要と指摘。「インシデント防止には情報収集、脆弱性管理、啓蒙のサイクルを行う小回りなCSIRTがいい。しかしインシデント発生時は全社横断的な組織である大きなCSIRTで対策検討、影響調査、対策実施、再発防止、対外公表を行わないといけない。小さなものがないと未然防止が図れないし、大きなものがないと万が一の対応ができない」とその理由を説明した。

また、日々の判断が求められる脆弱性対応にはWho(誰が)、Whom(誰に)、When(いつまでに)、What(何を)の4Wと判断基準の数値を決めることの重要性を説き、「誰が判断を行い、誰に依頼を行うのか、いつまでに行うのか、何をするのか。この役割分担と行動の判断基準の明確化をインシデント発生前に行うことが絶対必要」と述べた。

IPA技術本部セキュリティセンター 情報セキュリティ技術ラボラトリー J-CRAT 副隊長の伊東宏明 氏

独立行政法人情報処理推進機構(IPA)技術本部セキュリティセンター 情報セキュリティ技術ラボラトリー J-CRAT(サイバーレスキュー隊)副隊長の伊東宏明氏は、IPAが1月に発表した2017年の10大脅威のランキングで、個人向け・組織向けとも2位が「ランサムウェアによる被害」だったことを取り上げ、「本年5月にはWannaCry感染の報道もあり、一層注目度は上がったが、すでに問題は以前から顕在化していた」と指摘。また2016年から日本語表記のランサムウェアの被害が増え、同年は日本語ランサムウェアの検出件数が前年比の9.8倍にまでなっていることも説明した。

標的型攻撃の特徴について伊東氏は、「ウイルスを添付したメールを送付し、パソコン1台を感染させ、そこから組織内のネットワークを使い、他のパソコンやサーバーにさまざまな形で広がる」と指摘。感染については、何年も前から気づかないケースのほか、複数のマルウェアに感染していることも多いと紹介。標的型攻撃のメールに関わらず全体の傾向としては「請求書や宅配便の通知を装った日本語でのばらまき型メールが急増している」と述べた。2015年から2016年に行われた、とある標的型攻撃のキャンペーンでは企業メール等が不正に利用されているケースが94%と多く、乗っ取られたアドレスが攻撃に使われているとした。

攻撃への備えとしては「CSIRTが外部組織とのコンタクト、自組織のシステム構成、システム運用・保守・維持管理契約を把握しておくことが重要」と指摘。外部組織とのコンタクトでは感染嫌疑の段階での相談先、攻撃が確定した時の支援依頼先と報告先、被害発生時の情報共有を決めておくことの重要性を強調。常時、自組織のシステム構成について、PC構成やウイルス対策ソフト、ネットワーク構成、プロキシサーバー構成、ファイヤーウォールといったことを整理すべきとした。

また失敗に陥りやすいCSIRTの例として、担当者や責任者がそもそも脅威把握やBCPに疎い、運用を考えていない設計のほか、「機器導入や運用の効率化に資金をかけずに人力に頼る、外部セキュリティベンダーに任せっきりで自分たちで考えず、セカンドオピニオンも得ようとしないのは危険だ」と述べた。

この日、TIS公共事業部からは、CSIRTの運用を効率的にサポートする「CSIRTクラウド運用プラットフォーム」(クラウドサービス)も紹介された。同サービスは、この日のセミナー参加者である独立行政法人と特殊法人に向け、民間企業に先駆けて紹介されたもの。

公共市場へのCSIRTの構築及び運用案件を多く抱える同事業部では、運用定着のためのコンサルティングの引き合いが増えていることもあり、コンサルティングフローに沿った運用を補完する「CSIRTクラウド運用プラットフォーム」をリリース。

CSIRTの効率的な運用を目的としたサービスは数少ないため、運用定着に課題を抱える組織にとっては、今後システムの普及にともない、より強固なCSIRT運用体制が築かれることが期待される。

(了)