2017/07/25
防災・危機管理ニュース

東京都は24日、「首都災害医療センター(仮称)基本構想検討委員会」の第8回会合を開催。災害拠点病院である渋谷区の都立広尾病院の建て替えについて報告書のほか、委員会の意見書として「委員長試案」を審議し、了承した。現在地か移転かで揺れていたが、意見書では現在地での建て替えを提言。都ではこれに従い、今秋に再整備の基本構想をまとめるとし、事実上決着した。報告書では2023年度に予定していた開設を延期する方向や、災害対応機能の強化を盛り込んだ。
広尾病院は1980年に竣工。老朽化のために建て替えることとなり、2015年に閉館の同区青山にある「こどもの城」の土地に移転する方向で、2016年度予算に同国有地購入費用370億円が計上された。しかし経緯が不透明だとして、2016年12月に小池百合子知事が白紙の意向を示していた。
意見書では再整備にあたって、現在のベッド数を縮小すること、敷地の容積率を現時点で最大限活用していないことから、現在地建て替えでも十分に災害対応のスペースが確保できるほか、施設・設備の強化が可能であるとした。また建て替え中は周辺の拠点病院と協力し補完することなどで対応。長年この地で診療をしてきた経験と実績を地域貢献にも生かせることもあり、現在地建て替えを決めた。
都病院経営本部によると10日の前回会合後、委員から整備地についての意見を聴取したところ全員が現在地建て替えに賛成だったという。山本保博委員長(一般財団法人・救急振興財団会長)は「これまでの流れを試案としてまとめた。状況変化を踏まえ、広尾での建て替えが望ましいと考えた」と説明。広尾病院の江川直人院長は「建て替え期間中、機能減はあるかもしれないが、地域の医療機関と連携していく」と述べた。
現在地での建て替えをふまえ、報告書では事実上の延期として2023年度開設のスケジュールを再検討するとした。病院機能については建物を免震にする。現在の478床から400床程度に縮小し、現状で210%程度しか使っていない敷地の容積率を317%まで最大限活用することで、災害時は平時の2倍の入院患者受け入れ、災害対策本部やトリアージスペース、応援医療チームの参集スペースといった必要なスペース確保を行う。テロなどNBC(核・生物・化学)災害対応として専用貯水槽付きのシャワー施設を整備。現行と同等の屋上ヘリポートを整備する。
都では委員会の決定を受け、今秋に基本構想を、その後にさらに具体的な基本計画を策定する。新たな整備スケジュールは基本計画の段階で決める予定。
■関連記事「広尾病院、残留か移転か委員会で意見書」
http://www.risktaisaku.com/articles/-/3258
(了)
リスク対策.com:斯波 祐介
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方