(写真:イメージ)

□事例:社員がコロナウイルスに感染判明

食品加工業のA社では、先日、社員1人の新型コロナウイルスの感染が判明しました。感染したのは工場勤務の20代の女性で、PCR検査を受けて陽性となりましたが、無症状でした。検査を受けた理由は、ある舞台を観劇した劇場でクラスターが発生したとのニュースを見て、自分も濃厚接触者に該当するのではないかと思ったからでした。「クラスターが発生した舞台を見に行っていた。症状は無いが検査を受けた方がいいだろうか?」ということを上長に相談したところ、「検査を受けるべき」との進言があり、保健所に連絡して検査を受けた結果、陽性が判明しました。

A社では社員の感染者の発生を受け、その事実の公表に踏み切りました。ところが、直後からA社に抗議の電話やメールが殺到し始めました。「感染している社員の名前や住所を教えろ!」「なぜそんな危ないところに行ったのか?」「食べ物を扱っている会社の社員のくせに、自覚を持った行動ができていない!」などといった内容が多く、中には「A社の取り扱っている商品にはウイルスが混入している」という事実とまったく異なる誹謗中傷の書き込みをSNSにされるようになってしまいました。

それに対して、A社の社長は社員に次のようなメッセージを出しました。「感染のさらなる拡大を防ぐという公益性を重視して事実を公表した。現在、当社では彼女以外の感染者は確認されていない。これは他の社員や出入り業者の人たちに感染を拡大させてはいけないという思いから彼女が正直に告白してくれたおかげである。彼女もそれ以外の者も、わが社の大切な仲間である。彼女が早期に快復ができるように、また、それ以外の者も健康でいられるように会社として最大限の支援・対応を行うつもりである。また、わが社に対して数々の批判や避難が来ていることも承知している。取引先や地域の皆さまにご心配やご迷惑をおかけしていることは心苦しく思う。しかし、わが社は悪いことをしているわけではないし、恥になるようなこともしていない」

さらに感染した社員に対しては「あなたが正直に話してくれたおかげで、感染が広まらなかった。ありがとう」と伝えたと言います。

□解説:断固たる姿勢で非難に立ち向かう

新たに感染者やクラスターの発生が公表されるたびに、感染者やその関係者に対する懲罰的な言動が起こり、場合によっては謝罪にまで追い込まれてしまうといった事態が全国各地で垣間見られます。しかし、コロナウイルスに感染することは、不祥事ではありません。「油断をしたから」「本人に落ち度があったから」「この状況下で軽はずみな行動をしたから」といった非難には、断固たる姿勢で「そうではない」というべきです。

全国で1日に900人以上の感染者が出た日(7月23日)もある今、感染者を非難するような言動は社会を構成する一市民として厳に慎むべきであり、いずれ自分自身の身にも降りかかってくる可能性があることをそろそろ自覚し、視点を誤らないようにしたいものです。同時に、自社の社員に感染者が出てしまうことは十分あり得ることであるという覚悟も必要です。企業としてさらなるに感染防止対策に力を入れていく事はもちろんですが、社内で感染者が発生してしまった場合の対応として、社内や社外での濃厚接触者の特定や消毒といった対応のほか、次の二つの対処方法も検討しておかなければならないでしょう。

①人権配慮ルールを決定し、社内に周知しておく
②公表に関する範囲を決めておく