■法務リスク

中国事業において最も難しいといわれるのが、この「法務リスク」です。なぜなら、それは国家の体制が日本のそれとはまったく異次元のものだからです。たとえ日本での経営に長けているとしても、この未知の世界でその経験やノウハウが生かせるかとなれば、それこそ個々人の順応能力に期待せざるを得ないのが現実なのです。

中国事業に失敗し、日本に撤退する企業も少なくありません。しかし、彼らは自分たちの能力が足らなかったとは決していわないものです。何らかの理由をつけて上手くいかなかったことを正当化したい気持ちがあるのは否定できません。

そんな中でよくいわれるのが「中国は法律や政策が突然変わってしまう」とか「進出当初は大丈夫といわれたにもかかわらず、担当者が変わったらダメだといわれた」という「中国悪玉論」です。しかしこれは、半分事実であり、半分創作といえるのです。

最も難しい中国の法律への対応(写真:写真AC)

要するに、当事者が「法務リスク」にあたってどう感じたかだけの違いであり、あらかじめ「日本では考えられない理不尽なこと」が中国では起こり得ると分かっている経営者にとっては、さほど大きな問題ではないのです。つまりリスク管理、リスク対策ができていなかったということを正直に認めるべきだと筆者は考えます。

なぜなら、中国はまったく異次元の国なのであり、その中国の土地を借り、人を雇って、資本主義的なビジネスを行っているのだから、そこは軒下を借りる立場の日系企業の方こそ柔軟に相手に合わせることを実践すべきではないでしょうか? もしそれができないというのであれば、中国での事業戦略は再考すべきかもしれません。

■攻撃こそ最大の防御

リスク管理を行うある日本人専門家とお話をしたことがあります。彼曰く「本気でビジネスとしてのリスクを考えたならば、中国には進出しない方が良いだろうと私は進言するでしょう」

なるほど、それも一つの選択肢といえるでしょう。リスクを取れないのであれば、取らないことが最も賢明な選択だからです。孔子が残したという言葉に「君子危うきに近寄らず」がありますが、正しく彼のアドバイスに従えばそうなのかもしれません。

日系企業のリスク管理には「攻め」の観点が乏しい(写真:写真AC)

しかし、14億の人口を有する中国でのビジネスメリットを獲るという事業戦略を持つのであれば、その「危うき」と思われるさまざまなリスクを、最大限の準備をもって迎え入れなければなりません。

ただし、それをこれまでの日系企業が慣れ親しんだ「起きたら対応する」という受け身の対処療法では、現代中国ビジネスを勝ち抜いていくことはできません。

では、どうすべきなのか?

それこそBATHと呼称されるBaidu(百度、 バイドゥ)、Alibaba(アリババグループ)、Tencent(テンセント)、Huawei(ファーウェイ)や、新興の民間企業が行っている中国式BtoG(政府)戦略を研究し、より攻撃的な姿勢でのビジネスを展開していくことが望まれるのです。

日本人には不慣れなビジネス戦略かもしれませんが、中国ビジネスにおける「ビジネスリスク管理」は、この観点なくしては成り立たないことをよく理解していただきたく思います。「攻撃こそ最大の防御」なのです。