2017/11/29
防災・危機管理ニュース

地区防災計画学会は23日、公開シンポジウム「九州北部豪雨の教訓と地域防災力」を福岡大学で開催した。地区防災計画学会会長で兵庫県立大学防災教育研究センター長の室崎益輝氏は、冒頭のあいさつで「地区防災計画の仕組みは、共助と公助が連携することが重要。地区防災計画を作って終わりではなく、地域防災計画のなかに位置付けられて初めて成り立つ。共助と公助の関係を新しい段階でとらえなおすことができるところが、地区防災計画の優れた点だ」と、地区防災計画制度による共助と公助の連携の重要性を訴えた。
基調講演では九州地方整備局総括防災調整官の安部宏紀氏が、今年7月の九州北部豪雨における九州地方整備局の取り組みを発表した。今回の対応の中では、同局から被災自治体へリエゾン(連絡員)を派遣。被災し、混乱している自治体の負担を減らしつつ、迅速に事態をつかむことができたという。
また、復旧にあたった国土交通省のTEC-FORCE(※)の活動を紹介。「現在は自治体も職員の数を減らされ、技術者がいなくなっている。被災した東峰村では、技術者は村長さんだけという状況だった。災害時の行政支援には、専門家による迅速なサポートがないとこれからも同じことが繰り返されるだろう」とした。
また、発表した京都大学教授の矢守克也氏からは、「現在は「高解像度ナウキャスト」や「大雨警報(浸水害)の危険度分布」など、インターネットで様々な情報を入手することができるが、内容が高度化、複雑化しすぎて住民に伝わっていないのではないか。災害時に発生する身近な現象を避難のシグナルとして活用する「マイスイッチ」が必要なのでは」とし、災害時の住民とのコミュニケーションのあり方における問題を提起した。

シンポジウムでは、福岡大学法学部准教授の西澤雅道氏がモデレーター役となり、「災害時に何をスイッチにするか」「合併で地域のことが分からなくなった小規模自治体はどうするべきか」などについて活発な議論がなされた。
※TEC-FORCE(緊急災害対策派遣隊)‥国土交通省内において、大規模自然災害が発生または発生する恐れが生じた場合、いち早く被災地へ出向き、被災自治体などを支援することを目的に結成された組織。被災自治体などからの支援ニーズを把握し、二次災害の防止や円滑かつ迅速な応急復旧のための被災状況調査や災害対策用機械による応急対策及び技術的助言等を行う。(国土交通省ホームページより http://www.mlit.go.jp/river/bousai/pch-tec/index.html )
(了)
リスク対策.com 大越 聡
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方