2017/12/11
講演録

弊社では、エネルギー分野と家庭用のほか、病院で使う酸素、麻酔、手術用など医療分野へのガスの供給を行っています。オペ室のメンテナンスや、人工呼吸器も取り扱います。東日本大震災では、会社が内陸部にあるので被害自体は直接受けませんでしたが、沿岸部に被災した病院が多数ありました。災害時には医療用ガスの需要が急増します。特に酸素を供給できないと治療に重大な支障をきたすため、工場の復帰に取り掛かりました。
災害時に急増する医療用ガスを病院や在宅患者へ
大型の発電機を調達して医療用酸素の充填を再開し、在宅患者には酸素ボンベを配布する供給地点の情報をラジオで発信しました。普段からラジオ局と繋がりがあり、早い段階で意思疎通ができたことが幸いでした。ツイッターでの通知も行いました。患者さんはお年寄りの方が多いのですが、息子さんや家族がそれを見て伝えてくれました。
緊急車両の登録を3日目に行い、全車両を登録しました。原料酸素の製造プラントも停電していたので県庁を通して電力会社に優先供給を依頼しました。これらも普段から警察や県庁と意思疎通を図っており、その面識が生きたものです。そのほか、県庁からの依頼で、花巻空港に到着したDMATに対する酸素供給も行いました。
当時の輸送手段ですが、ガソリン車が12台、軽油が7台、LPガスで走る車が7台ありました。燃料種を分けてあったことで、輸送が止まらなかったことが結果として大きかったと思います。また、通信手段として携帯電話だけでなく簡易無線も普段から使っていたことが役立ちました。
3.11以降、電源、水、酸素供給、輸送対策を強化
東日本以降の取り組みでは、電源、水、酸素の供給、輸送の対策を行っています。電源は、大型の発電機が一次と二次。燃料種はLPガスとディーゼルです。そのほか、ポータブルの発電機(1500W×4基)による三次バックアップ、更には、外部から発電機、電源車が持ち込まれた場合の接続盤を設置しています。毎月第4金曜日は「発電機の日」とし、全社員が交代で全ての発電機を始動する訓練を行っています。
水に関しては、敷地内に2本の別系統の井戸を掘り、上水道を含めて三系統の水が来るようになっていますが、蛇口を分けて系統表示をし、普段から複数系統の水を使用しています。
医療用酸素のバックアップですが、震災前には、備蓄用の小さい容器をたくさん配布する考え方でしたが、今では大きめのボンベで、目安として24時間、酸素が切れないサイズのものを患者さんの家に普段から置くという対応をしています。そのほか、病院を支援しに行く場合のため、トラックさえ行かれれば通常の病院の中の酸素圧と同じような供給ができる仕組みを作り、それを普段から使っています。
現時点では、ガソリンの供給制限を受けない車両が7割、特にガソリンとLPガスのバイフューエル改造を施した車が一番多くなっています。最長3000km走るプリウスを、地元の改造車メーカーと作り上げました。物があまり運べないというプリウスの弱点を補うために、普通免許で最大サイズのトレーラーを牽引できるようになっています。
BCPでサービスの差別化を図る
BCP・災害対策の負担としては、やはり投資面です。すぐにリターンのあるものではありません。しかし、そこは発想や工夫次第です。ローコストで出来ることがたくさんあります。発想を柔軟にするには外の企業、人材と交わることです。また、弊社では社員の負荷分散と意識向上のために全員が災害担当です。防災を企業の文化とし、「防災経営」として全ての方針、行動に反映させています。そのため、災害対策本部が5分で開設できるようになっています。
BCPのメリットとしては、やはりサービスの差別化になっています。社員の発想や改善もずいぶん柔軟になりました。また、顔が見える組織になり、地域社会との関わりも深くなったことで、社員も定着しています。
我々にとってBCPは、自社のビジネスを継続する計画ではなく、自分たちが業務を継続することで間違いなく誰かの命が助かるという存在になっていくための計画であると考えています。
(了)
- keyword
- 東日本大震災
- 中小企業振興公社
- BCP策定推進フォーラム
講演録の他の記事
おすすめ記事
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方