富士山と羽田の管制塔 (画像:フォト蔵)

先月の連載では、旅客のための空港運営に力を入れているEUについてお話をしました。今月は、日本の空港、特に保安検査場におけるセキュリティとサービスのバランスについて説明します。

海外空港の華やかさ

UAEのドバイやシンガポールのチャンギといった国際空港は、旅客へのサービスを最大限考慮してデザインされた空港と言えるでしょう。旅客動線はスムーズで、時に数時間費やすことになるトランジットも、ラウンジやショップ、キッズプレイスペースなどが充実しているため飽きません。一人でも友人とでも家族とでもいっしょに楽しめる施設が空港にたくさんあります。明るく華やかな空港に到着すると、心が躍ります。ここは非日常の世界、24時間キラキラと輝き、常に進化し続けています。

非日常の世界から一瞬だけ戻される空間があります。それが保安検査場です。たいてい混雑していて、面倒で、ストレスになりますが、検査を受けなければ搭乗できません。保安検査場における旅客のイライラを少しでも軽減するため、ドバイなどの大空港では、スマートセキュリティという考え方が導入されつつあります。

スマートセキュリティでは、旅客にストレスをかけないように、広い空間に保安検査場を設置し、スループットとセキュリティ向上を目的とした最新の検査機器を導入します。しかしながら、スマート構想がどれほど進んだとしても、すぐには変更できないものがあります。それが、旅客に対応する保安検査員です。

保安検査も丁寧に

保安検査場で苦い経験をされた方はたくさんいらっしゃると思います。海外空港の保安検査では、荷物を丁寧に扱われないことは日常茶飯事、靴を脱いだら裸足のままで金属探知機を通過することは当たり前、さらに、検査員の多くは高圧的で、「please」と言われることはほとんどありません。

荷物が検査対象になると、「Is it your bag? Como on. Open. (あなたの荷物?こっち来て。開けて)」と、荷物の確認が始まります。バッグを引っ掻き回され、取り出され、検査が終われば荷物はごちゃごちゃのままで返却、「OK」と言われて終了です。危険物の除去、不審物の確認が彼らの仕事であって、荷物の整理は自分たちでやってくれということなのでしょう。

保安検査で過去に嫌な経験をした人は、検査自体に拒否反応を示すことがあります。そのため、旅客にどれだけストレスをかけずに保安検査を受けてもらうかが、保安検査員としての技量のひとつになります。

しかし、これは日本特有の考え方です。私自身も以前は保安検査場の検査員でした。びっくるするほど怒鳴り散らす人、何がなんでも持ち込もうとする人など、いろいろなタイプの旅客に日々対峙していました。海外では「アウト!」となる旅客でも、日本では非常に丁寧に扱われています。

特に、①「〇〇空港では持ち込めた」、②「いつもこのベルト(時計)で反応するんだよ」、③「私を疑っているのか?」というセリフは検査場でよく耳にしました。

①の場合: 〇〇空港で持ち込めたことは間違い、ルールでダメなものはダメなのです。飛行機を安全に飛ばすためにしっかりと考えられたルールです。海外では有無を言わさず没収です。日本の保安検査員は「こちらはお持ち込みいただけません(あきらめてください)」ということを旅客が納得する時間をかけて説明します。

②の場合: 反応することがわかっているベルト(時計)であれば、別のベルト(時計)にするか、検査場では外して金属探知機を通過してください。探知機を2周も3周もさせられている旅客が時々いますがカッコ良いものではありません。海外でも同じような光景に遭遇しますが、日本の保安検査員の丁寧さは群を抜いています。彼らは「ベルト(時計)を外してもう一度通過していただけますか?」と、ベルト(時計)を大切に預かり、対応します。

③の場合: 保安検査員の家族や友人でもない限り、その相手が信用できるかどうかはわかりません。それでも、保安検査員は「申し訳ございません。ご協力をお願いいたします」と怒る旅客をなだめながら検査への協力をお願いします。

飛行機には何百人も乗り込みます。赤の他人と隣合い、その隣の人が危険人物ではなく、彼らの荷物も安全であるという当たり前の安心感は、自分と同じ保安検査を彼らも受けているという前提があるからなのです。

さらに、日本では、靴を脱げばスリッパを持ってきてくれるし、荷物を開けられたら、それらをきれいに片付けるまで保安検査員が手伝ってくれます。確実に検査を実施しながら、丁寧さも忘れません。海外でここまで丁寧に旅客に対応する保安検査はありません。

丁寧すぎることがかえって混雑につながるという意見もあります。しかし、ルール上持ち込めないものはあきらめる、金属探知機が反応しそうなものは外しておく、など、旅客ひとりひとりがルールを守って検査に協力する姿勢で保安検査場へ入場すれば、保安検査はスムーズに進みます。自分もイライラせずに検査場を通過でき、保安検査を受ける時間も短縮できます。最後に伺います。誰のための保安検査ですか?

日本から世界へ

航空保安の分野は、海外の新しい機器を導入しようとか、欧米のようなセキュリティ対策を日本でも実施しようとか、輸入モノが多いのです。この分野で日本が海外へ向けて輸出できるモノのひとつ、それが確実に丁寧に保安検査を実施する検査員の技量だと思っています。

東京オリンピック・パラリンピックの開催まで3年を切りました。多くの外国人が日本にやってきます。空港は訪日外国人が出国する際に必ず立ち寄ります。彼らが最後に触れる日本が空港なのです。日本の保安検査では、欧米並みのセキュリティを実施しながら、謙虚さ・丁寧さという人間にしかできないサービスをも付加しています。空港は、日本の保安検査員のすばらしさを世界中からやってくる人々に見せつける最高のショーケースになるはずです。

今回で航空保安に関する内容は終了です。次回からは、航空保安におけるセキュリティとサービスに学ぶ『大規模イベントセキュリティ』についてお話をさせていただきます。ご意見・ご感想をお待ちしております。

(了)