2018/02/07
防災・危機管理ニュース

厚生労働省は4日、初めて成田空港(千葉県成田市)で啓発イベントを開催した。1994年以降大規模な流行が起きていなかった風しんだが、2011年に東南アジアで流行が起き、海外渡航者を経由して日本国内の都市部で集団発症する事例が急増した。厚労省は風しんを2020年までに国内から排除することを目指し、東南アジアや中国など流行地域への渡航が多い企業に対して、成人男性社員に予防接種を受けさせるよう啓発を強化していく。
風しんはウイルス性感染症の一つ。流行は春先から初夏にかけて多くみられる。せきやくしゃみなど飛沫で感染し、皮膚の発しんや発熱、リンパ節の腫れなどの症状がある。過去には日本国内でほぼ5年ごとの周期で全国的流行が起きていたが、1990年に男女に定期予防接種制度が整えられて以降は、大規模な流行は起きていなかった。 ところが近年東南アジアや中国で大規模な風しんが流行した影響で、 2011年から首都圏と近畿地方を中心に 海外渡航した成人男性が感染し、その職場や家庭で集団発生に拡大。 2010年に87人であった患者数が、2012~13年の2年間で1万6000人を超える感染例が報告された。
大人では重症になるケースは少ないが、妊娠20週頃までの妊婦が風しんに感染すると、出生児が難聴・白内障・心疾患など障害を持って生まれる先天性風しん症候群(CRS)を発症する危険性がある。 2011年以降の国内での急激な流行の影響で、2012年10月~2014年10月に、45人の先天性風しん症候群の患者が報告された。感染者数はその後2014年以降患者報告数は減少し、2017年は暫定値で年間93人まで減少しているが、厚労省は、今年1月から風しんに関する特定感染症予防指針を改定して管理予防体制を強化し、2020年までに風しん排除の達成を目指している。
特に今後啓発を強化の対象とするのが、30代後半から50代の成人男性。 かつて日本の定期予防接種制度で風しんの予防接種が女性のみを対象とされていた時期があった影響で、 1962年4月2日~1979年4月1日以前生まれ(2018年時点でおよそ39~56歳に該当 )の男性で抗体を持たない割合が高い。さらにこの年代の男性は、海外出張で感染流行地に行く頻度も高く、現地で感染したウィルスを国内の職場や家庭にいる妊娠中の女性に感染させてしまう危険性が高い。
2月4日に成田空港で開かれた啓発イベントでは、30歳代後半から50歳代の成人男性を中心に、風しんに対する免疫の不十分な人、妊婦と接する機会が多い人などに対して、風しんが海外から持ち込まれ、国内で感染が拡大することを予防するため啓発活動を行った。イベントでは、無料の窓口相談や抗体検査を実施するほか、風しん専門家と大学生によるトークショーなども開催した。
イベントに登壇した厚労省の三宅邦明・結核感染課長は「抗体をもっていない人が職場に一人でもいれば、職場で働く女性や、社員の家庭で生まれる子供たちを不幸にしてしまう危険性がある。個人の対応に任せるのではなく、ぜひ企業の危機管理の一環として取り組んでほしい」と話している。
■風しん予防啓発に関する厚生労働省の特設ページはこちら
http://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/rubella/vaccination/
■風しんの概要や発生動向に関する最新情報をまとめた国立感染症研究所のぺーじはこちら
https://www.niid.go.jp/niid/ja/diseases/ha/rubella.html
(了)
リスク対策.com:峰田 慎二
防災・危機管理ニュースの他の記事
おすすめ記事
-
-
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
-
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
-
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
-
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
-
-
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
-
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
-
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方