東日本大震災10年 災害対応の課題と解決策
インタビュー
東京大学生産技術研究所 加藤孝明教授 

東京大学生産技術研究所教授
加藤孝明氏

3.11から10年、日本は自然災害に次々に襲われた。避難所も、さまざまな経験を経てかなりの改善が見られる。例えば2月13日、宮城・福島両県で最大震度6強を観測した地震では、相馬市の避難所がテントを使ってプライバシーを確保していた。一方、昨年9月の台風10号では、定員に達した避難所が500カ所超。首都圏では避難所に住民が入り切れず、別の地域に移動せざるを得ない事態も発生している。東京大学生産技術研究所の加藤孝明教授は、公共施設を前提とした避難所は、需要に対して圧倒的に少ないと指摘。民間の「災害時遊休施設」の活用や〝災害時自立生活圏〟を増やして需要を減少させることが必要だと訴える。

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例えば、パチンコ店を避難所に活用する

――加藤先生が提唱されている「災害時自立生活圏」構想についてお聞きできればと思います。東日本大震災から10年がたち、この間、日本人の意識もさまざまな自然災害を経験することで、例えば早めに避難所に行くといった変化が見られるようになりました。その上で、今後どのような取り組みを進めていけば良いとお考えでしょうか。

 

日本の防災の根本問題は需要に対して資源が圧倒的に少ないことです。例えば、小学校の運動会では、お昼の時間に子どもたちと家族で体育館に入れば、いっぱいになり入り切れない。そのことから考えても、災害時の避難所は被災世帯が全員入れるわけがない。

公的な避難所や資源だけでは災害時の対応が間に合わない。供給を増やすか、需要を減らすか(写真:上下とも写真AC)

このアンバランスを解消するには①避難所などの資源を劇的に増やす②避難所に入る需要を劇的に減らす――しかない。政策的には「避難を徹底」と言われ続けてきましたが、これは需要を膨らませる一方です。さまざまな災害を経験してきたことで、これまで見落としていた需要が丁寧に掘り起こされたわけですが、そこには本質的な需要と、ただ需要を膨らますだけのものがあります。

まず、資源に関しては公共施設などが前提になっています。これでは需要が膨らめば膨らむほど、アンバランスが拡大する。公(おおやけ)の資源だけを利用するという形から脱却することが必要です。

では、災害時の資源として何が使えるかと言うと、一つは、災害時に使わなくてもよい「災害時遊休施設」。分かりやすい例としてパチンコ店がある。大きな駐車場があります。ユーザーが高齢化しているのもあって、アメニティーが充実していたり、子どもの遊ぶスペースもあったり、快適な避難所としての機能がかなり付いている。資源として活用できる。

パチンコ店は場所にもよりますが、非常用発電装置をつけているところもあるんです。当たりが出ている時に停電が起きると、お客さんとトラブルが生じる可能性があり、それを避けるために停電対策しているところがあるそうです。

広い駐車場を開放して、快適な車中泊ができる例えば、パチンコ店を避難所に活用する場所として提供すれば、ある都市でのケーススタディーによれば公的な避難所の2~3割に相当する人を収容できるとの試算結果もあります。避難所に入らなくても車中泊でなんとか過ごせる人たちが来ることによって、避難所に入る需要を減らしていくことに当然つながります。

一方で、全体の需要を減らすことも必要です。例えば、老朽住宅に暮らす1人暮らしの高齢者でペットを飼っている場合は、ペットと一緒に過ごせる避難所が必要ですから、これは本質的な需要です。しかし、高級車に乗って大型犬を飼っているような、自助で何とかできる人は避難所に入る必要はない。こうした本質的ではない需要の掘り起こしは止める。社会的弱者への対応は極めて重要ですが、それ以外の不要不急の需要を掘り起こすのを止めることで、需要の拡大を抑制していく。