パンデミック後の日本企業の危機管理を振り返る(写真:写真AC)

新型コロナウイルス感染症が2019年12月に発生し、1年半が経過しようとするなか、企業や法人組織が今まで実施していた危機管理対応と今後のBCP対応について、振り返りを含めてお話したいと思います。

1.企業は新型コロナに対し今まで何をしていたのか

2009年に発生しパンデミック状態になった新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)に対し、その時期、ほとんどの大企業や自治体では、新型インフルエンザ感染症事業継続計画が策定され、次なる鳥インフルエンザへの対応を念頭においてマニュアルがつくられていました。しかしその11年後、鳥インフルエンザではなく、新型コロナウイルスによるパンデミックが発生しました。

世界的感染拡大のなか、多くの国がロックダウンで人流を制限することで感染拡大を抑え込もうとし、日本においても、緊急事態宣言が昨年、今年と発令され、二波、三波、四波と感染の拡大縮小が繰り返されています。

感染の波が何度も繰り返されることは初めからわかっていたこと(写真:写真AC)

一部のメディアの論調では、このような波が何度も繰り返される事態に、政府の施策を批判する向きもありますが、世界保健機関(WHO)でさえ、パンデミックの感染拡大縮小に何度も波があることを指摘していて、専門家は、このこと自体に疑念を持っているわけではありませんし、その波の大小と成否があっても、一国だけで「完全に」感染を封じ込めることができないことも理解しています。

2009年当時の新型インフルエンザBCPの基本的考え方として、このような感染拡大縮小のフェーズを定義し、そのフェーズごとの対応をとるという仕組み自体は、現在の新型コロナBCPでも同様の考え方をあてはめることができます。つまり、何度もフェーズの対応が繰り返されることを前提にシナリオをつくります。

もちろん、日本では緊急事態宣言が発令されても、企業の感染症BCPの考え方においては、事業継続を考えなければならないような重大な局面(例:欠勤率が20%を超える)にまで来ていないことは明白で、全企業はその手前の危機管理フェーズで、非科学的な対応を含めて対策を実行してきました。

古い書棚に眠っていた2009年の新型インフルエンザ事業継続計画書を引っ張り出してきても、当時策定した担当者もおらず、対象となるウイルスが違うこともあり、感染症対応についての基本的な動作させ理解しないまま、危機管理担当者は、経営陣が抱える恐怖の感情や正常性バイアス(※)を起因とした発言や指示を受け、右往左往しているうちに現在に至っているのではないでしょうか。

※正常性バイアスとは
ヒトが震災や感染症蔓延に際し、静的パニックにより精神的な平衡を保ちたい意識が正しい判断を狂わせ、悪い情報さえ過小評価してしまうような精神状態。男性管理職や役員に起こり易い。