眠らない空港の例、米サンフランシスコ国際空港(出典:Wikipedia)

先月は、スポーツイベントと空港のセキュリティ対策を比較し、その類似点を説明しました。今月は、それぞれのセキュリティの違いについてお話します。

一時的か恒久的か

前回でお伝えしたように、スポーツのビッグイベントであるリオ五輪でもロンドン五輪でもセキュリティ資機材として使用されるものは、X線検査装置、金属探知機など空港の保安検査場で使用されているものと変わりありません。イベント会場への入場が許可されるのは、荷物の検査を受け、ボディチェックをされ、クリーン(=脅威ではない)であると判断されたヒトとモノだけです。全員が同じセキュリティ検査を受けているという安心感によって、私たちはその場が安全であると感じ、そのイベントを楽しむことができます。

イベント警備と空港警備、このように扱っている機材や対策は似ていますが、大きく異なることがあります。それは、そのセキュリティ対策が一時的なものなのか、恒久的なものなのか、という点です。いつも同じ場所に存在している空港は私たちにとって「日常」の場であり、恒久的なものです。一方、スポーツイベントはイベント期間だけ一時的にその場所に現れる「非日常」の場です。イベント期間中は、観戦を目的に大勢の観客が大波のように押し寄せ、期間が終わればその波はさぁっと引いていきます。

イベントと空港、それぞれのセキュリティ対策も同じことが言えます。スポーツイベントであれば、その期間だけの集中したセキュリティ対策が必要となります。オリンピックのような一大イベントであればなおさら、開催中は徹底したセキュリティ体制が敷かれています。しかし、イベント終了とともにセキュリティ対策も終わります。セキュリティを実施する期間がはっきりと設定されています。一方、国際空港は24時間365日の運営が基本ですからセキュリティ対策はいつどのような場合でも常に実施されています。テロリストは自分たちの都合の良い時間に都合の良い場所を攻撃してきます。空港はテロリストの恰好のターゲットですので、どこから来るかわからない攻撃に年中無休で対応しなればなりません。

私たちの意識の違い

イベント時と空港でのセキュリティについて、もうひとつ大きな違いを挙げるとすれば、私たちのセキュリティ意識の相違です。日本でも過去、オリンピックやサッカーのワールドカップなど、世界的規模のスポーツイベントが開催されました。警察や警備会社による徹底した対応がされたとともに、テロのターゲットとして狙われなかったというラッキーにも助けられ、私たちは日本開催のイベントを楽しむことができました。開催中のセキュリティ対策は厳しいものでしたから、日常生活に支障が出たり、不便を強いられたりした人も多かったはずです。しかし、期間が決まっているイベントの場合、その間のセキュリティがどれほど厳しいものであっても「たかだか2週間のことだから」と理解してもらうことができます。私たちも2週間だけなら、と私たちの日常生活に不自由を強いるセキュリティにも我慢をすることができます。どちらかと言えば、「イベント成功のためにセキュリティに協力しよう」という意識を持つ人が多いと思います。

それが空港ではどうでしょうか?いつ行ってもセキュリティチェックをしているので、乗りなれている人にとっては「またやってるのか」「何もないのになぜいつもチェックされるのか」という意識になります。飛行機で移動することが日常であるビジネスマンの方々にこの傾向は強く表れているようです。「いつもこの時計で鳴っちゃうんだよね」とか、「このベルトがね…」とエクスキューズする方々を空港の保安検査場でよく見かけます。金属探知機が反応する理由が、時計やベルトであるとわかっているのであれば、検査場に入る前に外す、もしくは反応しない他の時計やベルトに替えてくる、などの対応をしてセキュリティに協力してもらえたら、と思います。安全に飛行機が目的地に到着すること、何事も起こらない安心できる日常を常にキープすることがどれほど大変なことなのか、守られる側の私たちもしっかりと理解する必要があります。

2013年に起こったボストンマラソン爆破事件直後のエマージェンシーサービス(出典:Wikimedia Commons)

人が集まれば必ず何かが起こる!!

海外のセキュリティ会合に参加したとき、ひとりのセキュリティ専門家がこんなことを言いました。

「ビックイベントが何事もなく無事に終わるなんてことはあり得ない」

その場にいた全員がこの言葉にうなずいていました。彼らがビッグイベントを「無事に終えよう」という努力をしないということではありません。彼らは「どれだけセキュリティを厳重にしても何かが必ず起こる」「ビッグイベントはビッグインシデントを必ず連れてくる」と考えているのです。

ここに、日本と海外のギャップがあります。ビッグイベントが行われる場合、日本のセキュリティ関係者は「何事もなくこのイベントを終えるぞ」と決意します。無事にイベントが終わるようにあらゆる準備をします。「万全の体制で臨む」決意は素晴らしいのですが、完璧なセキュリティというものは世界中どこを探してもありません。

ビッグイベントはビッグインシデントを連れてくる、ということを考えると、2020年に日本で開催されるビッグイベントではどのようなビッグインシデントが発生する(可能性がある)のでしょうか?インシデントを避けるためには何が必要なのでしょうか?少しでもセキュリティを完璧に近づけるために何をすればよいのでしょうか?わたしたちひとりひとりができることは何でしょうか?

来月からは、航空セキュリティを基軸にしつつ、2020年とその先に向けたセキュリティ対策についてお話したいと思います。ご意見・ご感想をお待ちしております。

(了)