2018/03/23
セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~
先月は、スポーツイベントと空港のセキュリティ対策を比較し、その類似点を説明しました。今月は、それぞれのセキュリティの違いについてお話します。
一時的か恒久的か
前回でお伝えしたように、スポーツのビッグイベントであるリオ五輪でもロンドン五輪でもセキュリティ資機材として使用されるものは、X線検査装置、金属探知機など空港の保安検査場で使用されているものと変わりありません。イベント会場への入場が許可されるのは、荷物の検査を受け、ボディチェックをされ、クリーン(=脅威ではない)であると判断されたヒトとモノだけです。全員が同じセキュリティ検査を受けているという安心感によって、私たちはその場が安全であると感じ、そのイベントを楽しむことができます。
イベント警備と空港警備、このように扱っている機材や対策は似ていますが、大きく異なることがあります。それは、そのセキュリティ対策が一時的なものなのか、恒久的なものなのか、という点です。いつも同じ場所に存在している空港は私たちにとって「日常」の場であり、恒久的なものです。一方、スポーツイベントはイベント期間だけ一時的にその場所に現れる「非日常」の場です。イベント期間中は、観戦を目的に大勢の観客が大波のように押し寄せ、期間が終わればその波はさぁっと引いていきます。
イベントと空港、それぞれのセキュリティ対策も同じことが言えます。スポーツイベントであれば、その期間だけの集中したセキュリティ対策が必要となります。オリンピックのような一大イベントであればなおさら、開催中は徹底したセキュリティ体制が敷かれています。しかし、イベント終了とともにセキュリティ対策も終わります。セキュリティを実施する期間がはっきりと設定されています。一方、国際空港は24時間365日の運営が基本ですからセキュリティ対策はいつどのような場合でも常に実施されています。テロリストは自分たちの都合の良い時間に都合の良い場所を攻撃してきます。空港はテロリストの恰好のターゲットですので、どこから来るかわからない攻撃に年中無休で対応しなればなりません。
私たちの意識の違い
イベント時と空港でのセキュリティについて、もうひとつ大きな違いを挙げるとすれば、私たちのセキュリティ意識の相違です。日本でも過去、オリンピックやサッカーのワールドカップなど、世界的規模のスポーツイベントが開催されました。警察や警備会社による徹底した対応がされたとともに、テロのターゲットとして狙われなかったというラッキーにも助けられ、私たちは日本開催のイベントを楽しむことができました。開催中のセキュリティ対策は厳しいものでしたから、日常生活に支障が出たり、不便を強いられたりした人も多かったはずです。しかし、期間が決まっているイベントの場合、その間のセキュリティがどれほど厳しいものであっても「たかだか2週間のことだから」と理解してもらうことができます。私たちも2週間だけなら、と私たちの日常生活に不自由を強いるセキュリティにも我慢をすることができます。どちらかと言えば、「イベント成功のためにセキュリティに協力しよう」という意識を持つ人が多いと思います。
それが空港ではどうでしょうか?いつ行ってもセキュリティチェックをしているので、乗りなれている人にとっては「またやってるのか」「何もないのになぜいつもチェックされるのか」という意識になります。飛行機で移動することが日常であるビジネスマンの方々にこの傾向は強く表れているようです。「いつもこの時計で鳴っちゃうんだよね」とか、「このベルトがね…」とエクスキューズする方々を空港の保安検査場でよく見かけます。金属探知機が反応する理由が、時計やベルトであるとわかっているのであれば、検査場に入る前に外す、もしくは反応しない他の時計やベルトに替えてくる、などの対応をしてセキュリティに協力してもらえたら、と思います。安全に飛行機が目的地に到着すること、何事も起こらない安心できる日常を常にキープすることがどれほど大変なことなのか、守られる側の私たちもしっかりと理解する必要があります。
人が集まれば必ず何かが起こる!!
海外のセキュリティ会合に参加したとき、ひとりのセキュリティ専門家がこんなことを言いました。
「ビックイベントが何事もなく無事に終わるなんてことはあり得ない」
その場にいた全員がこの言葉にうなずいていました。彼らがビッグイベントを「無事に終えよう」という努力をしないということではありません。彼らは「どれだけセキュリティを厳重にしても何かが必ず起こる」「ビッグイベントはビッグインシデントを必ず連れてくる」と考えているのです。
ここに、日本と海外のギャップがあります。ビッグイベントが行われる場合、日本のセキュリティ関係者は「何事もなくこのイベントを終えるぞ」と決意します。無事にイベントが終わるようにあらゆる準備をします。「万全の体制で臨む」決意は素晴らしいのですが、完璧なセキュリティというものは世界中どこを探してもありません。
ビッグイベントはビッグインシデントを連れてくる、ということを考えると、2020年に日本で開催されるビッグイベントではどのようなビッグインシデントが発生する(可能性がある)のでしょうか?インシデントを避けるためには何が必要なのでしょうか?少しでもセキュリティを完璧に近づけるために何をすればよいのでしょうか?わたしたちひとりひとりができることは何でしょうか?
来月からは、航空セキュリティを基軸にしつつ、2020年とその先に向けたセキュリティ対策についてお話したいと思います。ご意見・ご感想をお待ちしております。
(了)
セキュリティ文化の醸成と意識の高度化 ~2020年に向けて私たちにできること~の他の記事
おすすめ記事
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2026/08/05
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2026/08/04
-
-
-
-
令和8年熊本地震 猛暑の被災地で熱中症を避ける
最大震度7を記録した令和8年熊本地震。熊本県内では400超の避難所が開設され、約9千人が避難している(29日時点)。真夏の避難生活は、熱中症の危険性を確実に高める。しかもこれからは、猛暑・酷暑下での復旧活動が本格化し、多くの人々が被災地で活動する。現地で熱中症をどう防いだらいいか。熱中症と災害医療に詳しい、さいたま赤十字病院高度救命救急センターの席 望医師に対策を聞いた。
2026/07/30
-
令和8年熊本地震 広がるデマ、どう見分ける?SNSとの向き合い方
28日に発生した最大震度7を記録した熊本地震では、早くも豪華寝台列車「ななつ星」が脱線したなどのデマ情報が広く拡散された。災害のたびに、広くSNSで拡散される情報にどう向き合えばいいか。デジタル空間の情報分析を専門とする Japan Nexus Intelligence の竜口七彩氏に聞いた。
2026/07/29
-
-
事例研究で有事に備え、組織の体質改善で形骸化を防ぐ
組織レジリエンスの強化やサイバーセキュリティーの向上、サプライチェーンの強靭化など、危機管理やリスク管理担当者が関与する領域は年々拡大している。変化する社会状況にあわせ、担当者はどのように学び、備え、対応することが求められるのか。森総合研究所代表の森健さんは、自治体と企業で危機管理担当者としての経験を積み、現在はコンサルタントとして、企業や団体の危機管理の支援を手がけている。自身の経験を踏まえ、危機管理の担当者にどうアドバイスしているのか、話を聞いた。
2026/07/27
-






※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方