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□事例 企業風土はなぜ改善されなかったか

大手製造業のA社は、近年、業績が伸び悩んできています。社員数5万人以上で売上高6,000億円を超えるグローバル企業ですが、ここ数年、業績は頭打ちで、社内の士気も今一つの状況です。社長は現状の社内の状況に危機感を持ち、リスク担当部門の責任者であるBさんに対し「社内の士気が上がらないのはなぜか、企業風土も含めて調査してほしい。同時に問題点の洗い出しと、それに対する対応策を検討してくれ」と命じました。

Bさんは、早速社内調査を開始しました。すると、A社内に以下のような問題が山積していることが分かりました。

・組織が大きくなり、さまざまな管理業務が必要になってくるに伴い、管理部門の力が強大になっている。細かな管理体制が敷かれているため、社内では誰も進んでリスクをとろうとしなくなり「前例踏襲」という仕事の進められ方がまん延し、社員たちの気持ちが萎縮している。

・「無理をすることはない」「自分がやらなくても誰かがやってくれる」「あえて新しい物事に挑戦しなくてもなんとかなる」という意識を持つ社員が多く、「現状維持」ばかりを考えている。今の事業や業務を見直し、さらに良い成果につながるようなチャレンジをする社員が煙たがられる存在になっている。

中でもBさんが注目したのは、次のような調査結果でした。

・過去の判断が、何の検証もないままいまだに社内のルールとして存在している。既に社会的に認められないようなものでも「長年やっていたことだし、今さら言って大事になり、結果、A社にとって致命的なリスクが発生したら困るので黙っておいた方がいい」「今の世の中では認められないのではないか?と思うこともあるが、長い間の『仕事のやり方』として引き継がれてきたもので、自分でそれを変えなくても大丈夫と思った。事実、それによってA社の製品に何らかの品質的な問題が発生したこともない」

これも調査結果で分かったことですが、A社は過去に品質管理で問題が発生したことがあり、その時は取締役会にまで報告が上がらずに、現場で処理をしていた事実も発覚しました。当時の担当者に事情を聞くと「当社製品の品質について指摘を受けた事実はありましたが、消費者にとって実害が発生するほどの不良ではなかったため、販売を継続しました。現在は既に在庫も残っておらず、その件の処理も済んでおりますので今後問題になることはないと思います」という回答でした。

Bさんはがくぜんとしました。社長に対してどのように報告をし、どのような対応策を取ったらいいか見当もつきません。