警察や消防、住宅メーカー、保険会社、大学など多業種がコラボして火災原因調査研修を行っている(「Fire Investigation Training Exercise」City of Fayetteville, NC Government 出典:Youtube)

現在、全国で消防戦術ワークショップなどを行っているが、消防の火災現場対応件数の大幅な減少による消防戦術力の低下はもちろん、火災原因調査力もスキルアップが難しいという意見を耳にする。

■平成28年(1月~12月)における火災の状況(総務省消防庁)
http://www.fdma.go.jp/neuter/topics/houdou/h29/07/290728_houdou_1.pdf

火災出動経験が減る理由については、建物内外のさまざまな防炎性能向上、消防設備の充実、住宅の火災警報器やガスコンロの過熱防止用センサーの設置義務化、禁煙社会への取り組みなどにより、社会全体が多方面から具体的に火災予防に取り組み、子供たちにも防火教育を行ってきた成果だと思う。

世界でも同じように社会の防火意識の向上や火災予防の施策が浸透し、日本と同じように総出火件数は年々、減少している。

そのため、例えばニューヨークなどの大都市では、市の予算委員会において消防予算の減額などが提案されている。火災原因調査は特別な専門知識や報告書の持つ責任リスクから、消防の有料サービスとして行政収益にすることも考えられている。

州によっては、消防局の火災原因調査課に損保会社からの派遣職員や警察からの出向職員がおり、現場で放火犯を逮捕したり、テロリストと対峙することもあるため、スーツやユニフォーム姿で拳銃や手錠などを所持していることもある。

■2017年度予算要望と2016年度予算要望選挙管理報告書(ニューヨーク市消防局)
https://council.nyc.gov/budget/wp-content/uploads/sites/54/2016/05/057-FDNY.pdf

米国やカナダでも、総出火件数の減少から火災原因調査能力が低下すると考え、さまざまな工夫を行っている。

その一例として、ノースキャロライナ州フェイエットヴィル市消防局では、地域の各住宅メーカーや住宅施工会社、建築や工業系の大学や損害賠償保険会社のほか、消防と警察が合同で、実際に建物を燃焼して火災調査研究会を行い、実験データを全世界の消防関係者に公表している。



「Fire Investigation Training Exercise」City of Fayetteville, NC Government (出典:Youtube)

火災原因調査の他業種コラボ研修のメリット

ユニークなのは、土地の提供希望者を募り、土地を提供した所有者は固定資産税の控除になる。住宅メーカーと施工会社は、着工から燃え尽きるまでの一部始終の映像を広告ビデオに用いるほか、着工中は広告看板を立て、新規クライアントへのアプローチ機会として活用している。

建築や工業系の大学は、完成した建物内に様々なセンサー(温度、湿度、有毒ガスガス検知、酸素濃度検知器等)やカメラを設置して、煙の流体速度、壁材や塗料毎の温度変化や場所毎の一酸化炭素ガス発生濃度を計測。熱伝導などの実験も屋外の建物で行うことができる。

火災保険などを扱う損害賠償保険会社は、火災保険を扱う社員の実践的な知識を得ることができ、同時に火災映像を撮影することができす。警察は放火犯捜査のシナリオ訓練や、犯罪がらみの火災を前提とした調査手法や現場検証手順訓練に生かしている。

消防は、施工時にサイズアップの基礎となる建築材料の防火性能、部材の強度や構成を見ることができる。実際に燃焼する際には各可燃物の焼け方の特性や発生するガスや煙の濃度と危険性、煙の流体特性や排煙実験、有効な消火フォーメーションや装備の活用方法などの研究をすることができ、サイズアップやVEIS等の消防戦術訓練の機会となる。

■VEISの基本的な初期現場活動について(前編)
〜活動隊員の安全を保持しながら、要救助者を救助する〜
http://www.risktaisaku.com/articles/-/4856

もちろん、消防広報用の消火活動シーンも撮影し、組織の内部教養アーカイブとしても映像が活用される。現場活動隊員への火災原因調査の具体的な手法を教えることで、現場活動中の隊員によるボディー&ヘルメットカメラを用いた具体的な火災状況情報収集や提供手法を学ぶことができる。

日本の火災現場ではたぶん行われていないが、火災による被災者の心理的なアフターフォローや生活再建アドバイスなど、地域消防という守り手として、住民に寄り添ったサービスも行っている。

いつも何かに気を遣って、過去に閉じこもっているばかりでなく、こういう新しく思い切った企画を実戦することで、組織が活性化し、各職員全体の意識の改善にも繋がっていくのでは無いだろうか?

次回は、具体的な火災原因調査の手法について書いてみたいと思う。

(了)


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