2018/04/18
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
消防団や企業の支援
消防団には、本当に助かりました。水がどんどん届いても職員には配布する余力がないんです。そんな中、消防団員が、私たちが配るからと言ってくれ、避難所をはじめ、その庭先やグラウンドなど、指定していないところまで、ある程度水は配ることができましたが、これも消防団のおかげです。
企業からの支援も助かりました。近くに大きな製パン会社があり、そこから何万個ものパンを即提供してもらえたことも大変ありがたかったです。
公平性と効率性
それでも、水の量がまだ不十分なときに、指定避難所を優先するとかしないかとか、どこから配るかということについては、相当な批判がありました。どこから配っても不満を持たれるでしょうし、難しいことですが、優先順位をつけざるを得ない面は実際にあります。そういうことは首長の責任でやらないといけないと改めて自覚しました。
執行部からあがってくる数々の課題については、対策本部会議に、次長、部長級が全部そろっていますから、そこでみんなで合議して、その都度、その都度判断していきました。特に大きな問題もなく対応できていたのですが、罹災証明書を発行する際、初日にたくさんの方々が来て、発行ができなかったんです。夕方5時ぐらいに作業を打ち切ったら、住民の方の不満が一気に爆発してしまい、大変な状況になりました。
大学の先生からも罹災証明の判定については対面で説明することが大変重要だということも言われていて、当市の職員も丁寧なので、第一次判定を出すときに、なるべく対面で説明をしたほうがいいということになったのですが、それだと人数が多すぎて、とてもさばけないわけです。ですから私は、待てない人もいるのだから、とにかく早く判定だけもらえるゾーンも作りなさいと言って、結果的に大分収束させることができたのですが、こうした点が、ダイレクトに市民の方々の不満になっていったということは教訓です。
特に大変だったのがマスコミの報道に対する対応です。3か月を過ぎた頃だと思いますが、各家屋の罹災証明書の判定結果が出て、ある新聞社が、その結果に対する異議申し立ての認定率を市町村ごとに1面に掲載したんです。罹災証明はA全壊、B大規模半壊、C半壊、D一部損壊という形で出されますが、例えば第一次判定でDという判定を受けても、異議申し立てで再調査をしてCになったなどのケースです。
宇城市は60数%で、熊本市に次いで高いぐらいの数字だったんですけど、新聞社からの電話で突然数字を聞かれ、職員が「アパート一棟に4世帯が住んでいたケースで、このうち1世帯が異議申立をした結果、4世帯全てが見直された場合、これをどう計上するのか」検討している最中に、宇城市は「計上せず」と載せられてしまいました。
当然、市民からは「宇城市は何をやっているんだ」という苦情が来ますし、他の認定率が低い市町村はさらに多くの苦情が寄せられたと思います。
まだ震災のショックも癒えない状態の中、特に市民は公平性について敏感になっていて、このように市町村ごとの数字が出されたものですから大騒ぎになるのは当然です。
結局、公平性を崩すわけにはいかないところが災害対応の非常に難しいところです。罹災証明書の判定は、お子さんの授業料まで関係してきますし、ずっと判定の結果が尾を引くので、本来なら、市町村がバラバラにやるのではなく、県の統一基準でやってもらうべき業務ではないかと思います。
また、例えば大臣が会見で家屋の解体費用は国が持ちますということを、総務省が県にも伝えていない段階で発表してしまう。大変有難いことではあったのですが、そうするとマスコミがまた、すぐに全国放送で流すので、市役所にも何の情報も来てない状態で、テレビを見た市民から「うちの解体費用300万がただになるのか」と市役所に問合せが殺到しました。自治体の財政負担を軽減することは有難いことですが、現場の自治体に大きな影響を及ぼすことも事実です。
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断の他の記事
おすすめ記事
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/11/18
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17
-
-
-
-
-
社長直轄のリスクマネジメント推進室を設置リスクオーナー制の導入で責任を明確化
阪急阪神ホールディングス(大阪府大阪市、嶋田泰夫代表取締役社長)は2024年4月1日、リスクマネジメント推進室を設置した。関西を中心に都市交通、不動産、エンタテインメント、情報・通信、旅行、国際輸送の6つのコア事業を展開する同社のグループ企業は100社以上。コーポレートガバナンス強化の流れを受け、責任を持ってステークホルダーに応えるため、グループ横断的なリスクマネジメントを目指している。
2025/11/13
-
リスクマネジメント体制の再構築で企業価値向上経営戦略との一体化を図る
企業を取り巻くリスクが多様化する中、企業価値を守るだけではなく、高められるリスクマネジメントが求められている。ニッスイ(東京都港区、田中輝代表取締役社長執行役員)は従来の枠組みを刷新し、リスクマネジメントと経営戦略を一体化。リスクを成長の機会としてもとらえ、社会や環境の変化に備えている。
2025/11/12





※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方