2018/04/18
熊本地震から2年、首長の苦悩と決断
前震発生から家には帰れず
前震が起きた時は、近くであった宴会からの帰りの車中にいました。車の中で大きく揺れ、これは半端じゃない地震だと思って、すぐに市役所に戻りました。すでに対策本部の準備はされていたので、発災から1時間経たない時点で、第1回対策本部会議を行いました。
宇城市は、益城町のように大きく被災したというイメージが持たれていませんが、実は、解体件数は、熊本市、益城町に次いで多く、震度4以上の震源地についても、半数強が宇城市で発生しています。ただし、停電もなく、庁舎も使えたことは不幸中の幸いでした。前震があってから数日間は家に帰れず、帰ってもシャワーだけを浴びて1時間ぐらいで役所に戻ってくる生活が続きました。
本震のときも庁舎にいて、ちょうど佐世保から自衛隊の方々が、トラックで物資を運んで1階のホールに搬入している最中でした。ダダダダーッと揺れが襲ってきて、自衛隊の方も腰を沈めて、ホール内が騒然となりました。副官が大声で「外に出ろ」と指示を出し自衛隊員がばーっと外に出て、私たちもこれは危ないと思い、職員に「外に出なさい」と言って、かなり緊迫した状況になったのを覚えています。
この時は、幸いにも市職員や応援職員等に負傷者は出ませんでした。市民の方々も、後々、残念ながら関連死が発生してしまいましたが、この時点では、市内で揺れによる直接の犠牲者は出ていなかったはずです。
現実に起こり得る最悪の事態に備える
電話も、時々混線がありましたが通じましたし、LINEが機能していて、職員と連絡を取り合うのに使うことができました。誤解を招く言い方かもしれませんが、今回の震災は、まだ恵まれていたんだろうと思います。もし平日の昼間だったら学校での被害だけでもかなり大きなものになっていたと思います。かといって、ミサイルが落ちた、核弾頭が落ちた、あるいは超巨大災害で数百人の死者が出ているというような状況まで想定する必要があるかと言えば、それはあまりに現実離れしているようにも思います。今、現実的に起こり得る最悪の事態を考えた上で、誰がどう動いて、何をすべきということを、もう一度、しっかりと書き出して議論し、訓練をしておくことが重要だと思います。
現場で指示をするか市民の元へ行くか
私自身、これまで大規模な災害対応にあたった経験はありませんが、火災や大雨などの災害対応にあたる中で、総合指揮を行う関係機関のトップはむやみに動いては駄目だと感じていました。
ですから、熊本地震でも、私は対策本部に来てから、ここを動いてはだめだと心に決めていました。実際に次から次へといろんな情報が入ってきて判断をしなくてはいけませんでしたから、その判断や方法論は間違っていなかったと思います。
ただし、私は市民から選ばれた首長であり、政治家ですから、多くの市民が家にいられず避難所に押し寄せる状況の中で、現場に出向いて「皆さん安心してください」と言わなくてはいけなかったとも思うのです。避難所を回れるだけ回って、困っている市民の前にリーダーとして姿を見せなくてはいけなかったのではないか。対策本部にずっといるのと、どちらが正しいのかは、まだ自分の中で結論は出ていません。でも、もう一度あのような状況になったら、私は出来る限り市民の元へ行くと思います。
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