2021/10/07
本社機能のバックアップについて
~いざというときの対応力強化のために~
東日本大震災が契機
――大阪拠点でのバックアップ態勢について詳しく教えてください。
大西氏:首都圏広域災害時においても当社の業務を継続できるようにするため、大阪府吹田市に大阪オフィス(大阪資産管理部)を設け、2018年4月より稼働させました。この契機となったのが東日本大震災であり、当社において2013年に設置した「大阪事務センター」が大阪拠点の源流です。

大阪資産管理部
災害が起きてからの移動は無理
小林も申し上げましたが、大阪拠点の運用に当たり当社が重視したことは「デュアルオペレーション(複線運用)」です。
大阪にオフィスを用意していつでも業務を開始できる態勢を整えたとしても、実際の首都圏広域災害時に大人数の社員が新幹線で東京から大阪へ即日に移動することは現実的ではありません。よって、当社では平時から東阪間で同じ業務を分割して運用する「デュアルオペレーション(複線運用)」にこだわりました。
21業務が業務継続プログラムの対象
――業務継続の対象業務拡大に伴い大阪資産管理部を拡充されてきたとお聞きしました。
大西氏:当社では、21業務を最重要の(絶対に止めることができない)業務継続対象として扱っています。このうち16業務が「デュアルオペレーション(複線運用)」の対象業務であり、平時から大阪オフィスにおいても業務を運用しています。
その他の5業務は、平時は東京オフィスのみで運用していますが、いつでも大阪オフィスが代行できる態勢になっています。
対象業務拡大によってお客さまからも注目
「デュアルオペレーション(複線運用)」の対象業務は、拡充の都度お客さまへご案内しています。
昨今の感染症のまん延によって業務継続態勢が注目されたこともあり、直近1年間だけでも当社大阪拠点に関するお問い合わせが急増しました。お客さまや関係機関の中には、感染症まん延下で移動が制限される環境にあっても、わざわざ当社大阪オフィスまで視察に足を運んでくださる方々もあるほどです。
東阪間で分けられない仕事がある
――デュアルオペレーションの態勢構築に当たっての課題などはありましたか。
大西氏:「デュアルオペレーション(複線運用)」においては、現在のところ、同じ仕事について東阪間の仕事の分担を「9:1」「8:2」などの割合で運用しています。
しかしながら、業務工程上どうしても分割できない仕事もあります。このような仕事については、東阪間で定期的に交換(ローテーション)して運用しています。こうすることで、いつでも「不測の事態」に対処できる業務の品質を担保できるからです。
社員の育成―東阪間で差異がないように
冒頭のご説明にもありましたが、当社が担う有価証券の管理保全という仕事は大変高度で専門技能を要します。このため、社員を一人前に育てるには、相応の時間と業務機会を必要とします。
当社では大阪オフィス所属の社員が東京の社員と同等の修養機会を持てるようにするため、東京オフィスへの短期定例派遣や東京オフィスから業務指導を担う社員を大阪へ一定期間常駐させるなどの運営を確保しています。
直近では、関西地区でいわゆる新卒採用の運用が始まり、大阪オフィスとしても新しい仲間を迎えることができるようになりました。今後は、社会人経験のない社員の育成についても充実させていきます。
東阪間のコミュニケーション
当社では同じ仕事を東阪間で分割していますので、お客さまや取引先から当社へいただく運用指図や取引連絡は東阪間で同時即時に受信、共有される必要があります。
業務システムがこれに耐える構造になっていることは言うまでもありませんが、人と人の間のコミュニケーションについても、東阪が同じオフィスにいるのと同じように確保されなければなりません。このため弊社では、東阪間の常時接続のコミュニケーションシステムなどを調えています。
東阪間で共有できない「紙」
同じ仕事を東阪間で分割したときに問題となるものが「紙」です。物理的に場所が離れていると、業務工程間で紙を受け渡すことはできませんし、これを都度電子媒体化するのは大変非効率です。当社では昨年度1年間だけでも、680万枚程度の紙(業務帳票)を廃止することになりました。
徐々に大阪を拡大
――大阪態勢構築の今後の方向性は。
小林氏:現在「9:1」「8:1」などの比率で分割運用している東阪比率を「5:5」にすることが理想ですが、ここまで拡大することは容易ではありません。
当社の総合的な業務継続態勢充実の方向性は、大阪オフィスを徐々に拡大しながら、在宅勤務やサテライトオフィスの拡充を進め、「東京」や「場所」に拘束されない業務運営体制(態勢)を築くことです。
――ありがとうございました。
日本マスタートラスト信託銀行様では、大阪でしっかりと本社機能のバックアップ態勢を構築されているだけでなく、緊急時でも滞りなく業務運営を行えるよう、東京―大阪でのデュアルオペレーションを実施されています。
多くの企業様でも業務継続計画(BCP)を策定し、本社機能のバックアップ態勢を構築・検討されていると思いますが、果たして想定外の事態が発生したときに、業務継続計画(BCP)が実際に機能し、滞りなく確実に業務継続することができるでしょうか。
この連載では、高度な専門性と安全性が求められる資産管理専門信託銀行の事例をご紹介しましたが、他の業種の企業様にとっても本社とバックアップ拠点とのデュアルオペレーションは、業務継続計画(BCP)の実効性確保の有効な選択肢の一つになると考えます。また、デュアルオペレーションでなくとも、バックアップ拠点の平時からの機能代替、機能拡充は、円滑なバックアップ態勢への移行に効果的です。
業務継続計画(BCP)を作成・見直しなどをされている企業様の検討の一助になれば幸いです。
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