ドイツハンブルグ大学のティモ・ブッシュ氏らの、約2000本の論文からESGと企業業績の関係性について調べた論文によると、およそ半数がESGの取り組みを高めれば企業価値が上がる関係性にあることがわかりました。

2010年半ばまでは、SDGs/ESGに注意を払う投資家はほとんどいませんでしたが、今日ではこれらの関連するデータは大いに重視され、SDGs/ESGへの取り組みが甘い企業を投資対象から外す動きすらあります。しかし関心が高まる一方で、多くの企業は具体的にどのような施策を行ったらいいか確信を持てずにいます。

そこで今回は、SDGs/ESG視点から企業は今どのような新たなリスクにさらされているか、またそのリスクを回避するため、ステークホルダーとどのようなコミュニケーションを行えばいいか、その戦略について考察します。

SDGs/ESG視点からどのようリスクが想定できるか?

電通が今年(2021年)発表した調査によると、生活者のSDGs認知率は54.2%で、前年調査からほぼ倍増しました。
 

出典:全国10~70代の男女計1,400人を対象とした「SDGsに関する生活者調査」より抜粋

もちろん認知率が高いからといって、実際SDGs/ESGやサステナビリティに関してプレミアを払ってもいいと考える日本の消費者は、欧米に比べてまだまだ少ないのが現状です。

しかし今後このような潮流は、ますます強くなり、これまでは思いもよらなかったことが、事業リスクとなるでしょう。

香りのよい石鹸で有名なLUSH(ラッシュ)は11月末、消費者のメンタルヘルスに与える「ソーシャルメディアの深刻な影響」に対する認識を高めるためにInstagram、Facebook、TikTok、Snapchatをユーザーにとって安全かどうか確認ができるまで、利用を一時的に停止することを発表しました。これは社会(S)またはガバナンス(G)分野の、企業倫理におけるコミュニケーションリスクに対しての行動といえます。

環境(E)については、カーボンニュートラルという世界的な社会的要請により、自動車業界において、急速な電動化への方向転換が求められ、ビジネスの根本的な構造転換を迫られつつあることなどがリスクとしてあげられます。

また、2013年にバングラデシュで発生したビル崩壊事故は、コスト削減のために入居したとされる世界各国の有名ファッションブランドが、世界的に大きな非難を浴びて不買運動が起きました。このケースでは事故の原因である不十分な安全管理だけでなく、労働者に対して低賃金で長時間労働を強いていたことも問題視されました。この様な背景により企業は、人権問題も重要な事業リスクと位置付けた、新たな対応を迫られるようになってきています。

他にも、SDGs/ESGに取り組まないリスクとして、レピュテーションにより企業ブランドの価値が下がる、人材確保(特にZ世代の若手)が困難になる、資金調達が難しくなる、機会損失などがあげられます。

以下にSDGs/ESGの視点で企業が考えるべきリスクをまとめました。さまざまなリスクがあることがお分かりいただけると思います。

【ESG視点から検討すべきリスク項目】

3つの柱 10のテーマ 35の重要課題
環境 気候変動 炭素排出量
環境配慮型金融
製品のカーボンフットプリント
気候変動の脆弱性
天然資源 水質汚染
原材料調達
生物多様性と土地利用
汚染と廃棄物 有害物質及び廃棄物
家電廃棄物
包装材廃棄物
環境の機会 クリーンテクノロジーにおける機会
再生可能エネルギーにおける機会
クリーンビルディングにおける機会
社会 人的資本 労務管理
人的資本の開発
健康と安全
サプライチェーン労働
製造物責任 製品の安全性と品質
化学物質の安全性
金融商品の安全性
プライバシーとデータセキュリティ
責任ある投資
健康および人口統計学的リスク
ステークホルダーの反対 問題を引き起こす原因となる調達
コミュニティとの関係
社会的機会 コミュニケーションへのアクセス
医療へのアクセス
金融へのアクセス
栄養と健康における機会
ガバナンス コーポレートガバナンス オーナーシップとコントロール
取締役会
報酬
会計
企業行動 企業倫理
税の透明性

出典:MSCI ESG Research (2020, November). “MSCI ESG Ratings Methodology Executive Summary.” をもとに著者が作成