2021/12/28
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスク
企業の存続にさえも影響する
オンラインでの詐欺行為を阻止した成功事例としては、インターポール(国際刑事警察機構)が主導して今年6月から9月までの期間で実施したコードネーム HAECHI-II作戦*3がある。日本を含む20カ国の警察機関が連携し、1,660件の事件に関与した1,003人を逮捕、2,700万ドル(およそ30億円)の回収に成功した。
詐取された金銭が回収されたことで、800万ドルを詐取されたコロンビアの繊維会社は倒産の危機を免れている。11月に米国の大手家電量販店で、店舗での商品が盗まれるといった窃盗事件(これはオンラインでの詐欺行為ではなく、店舗での窃盗という物理的な行為)が頻発したことを懸念し被害企業の株価が一時17%安となることも発生したが*4、このコロンビアの繊維会社での例のように、オンラインでの詐欺行為の被害が企業の存続に直接的な影響を与えるまでに発展することもままある。
いま一度立ち止まる
狙われるのは企業だけでない。企業への投資を行っている投資家も狙われている。
11月に米国証券取引委員会(SEC)が投資家に向けて発行した注意喚起*5では、米国証券取引委員会を装った偽のメールや電話、ボイスメール、手紙などに気を付けるよう述べている。その手口とは、標的とされた投資家の口座が不正取引に悪用されているので確認したいということで、保有株式、口座番号、暗証番号、パスワードなどを聞き出そうとするものである。こうして冷静な時に聞けば怪しいことにも気付くことができるかもしれないが、その時の状況や信頼に足るような情報が提供された時には、その判断も難しいものとなるかもしれない。
これらの手口を見ていくと、どことなく類似性があるようにも思えてくる。11月には中国の研究者らが、ディープラーニング(深層学習)アルゴリズムを用いてフィッシング詐欺のウェブサイトを検出する方法を学会誌で発表した*6。13,000件ものフィッシング詐欺のウェブサイトを用いた実証実験で、99%の精度での検出が実証されたとのことである。
コロナ禍によって働き方が変わり、怪しいメールや電話が来ても隣の席の同僚に気軽に確認することが困難になった。そのような隙をも突く形で、「人」の脆弱性を狙った手口が大幅に増えている。
人工知能に学習させるためのコストも、専門家によっては年率50~70%低下しているとも言われており、コストの低下と被害事例の増加によって同僚の代わりに怪しいメールを教えてくれるような技術が登場するのも、そう遠い話ではないだろう。
とはいえ、今日明日でどうにかなる話というわけでもない。 この後開くメールのリンクをクリックする前に、いま一度立ち止まって確認されたい。
出典
*1 https://therecord.media/fbi-document-shows-what-data-can-be-obtained-from-
encrypted-messaging-apps/
*2 https://www.ic3.gov/Media/PDF/AnnualReport/2020_IC3Report.pdf
*4 https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2021-11-23/R3139MT0G1KW01
*6 http://www.inderscience.com/offer.php?id=119167
本連載執筆担当:ウイリス・タワーズワトソン Cyber Security Advisor, Corporate Risk and Broking 足立 照嘉
非IT部門も知っておきたいサイバー攻撃の最新動向と企業の経営リスクの他の記事
おすすめ記事
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/10/14
-
トヨタ流「災害対応の要諦」いつ、どこに、どのくらいの量を届ける―原単位の考え方が災害時に求められる
被災地での初動支援や現場での調整、そして事業継続――。トヨタ自動車シニアフェローの朝倉正司氏は、1995年の阪神・淡路大震災から、2007年の新潟県中越沖地震、2011年のタイ洪水、2016年熊本地震、2024年能登半島地震など、国内外の数々の災害現場において、その復旧活動を牽引してきた。常に心掛けてきたのはどのようなことか、課題になったことは何か、来る大規模な災害にどう備えればいいのか、朝倉氏に聞いた。
2025/10/13
-
-
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/10/05
-
-
-
-
-
-
カムチャツカ半島地震 津波対応振り返り【専門家】
7月30日、ロシア・カムチャツカ半島付近の地震による津波が日本列島に到達。広い範囲で津波警報が発表されました。突然の警報に戸惑った企業も多いのではないでしょうか。南海トラフ地震では、短時間でより大きな津波が襲います。教訓として残ったものは何か。企業の振り返りと専門家へのインタビューを通じ、津波対策の課題と改善点を探ります。
2025/09/24
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方