2022/01/27
オピニオン

危機管理2022[特別版]より
オールハザードBCPへのシフト急務
リスク対策.comは2022年の年頭にあたり、リスク管理・危機管理の観点から昨年を振り返るとともに、今後重きを置くべき対策と活動を展望すべく、防災・BCP、リスクマネジメント分野の専門家12人に「2022年企業が取り組むべきこと」をテーマに寄稿をいただいた。
そのなかから注目すべき課題と求められる対策・活動をキーワードで抜き出し、視覚的に表現したのが上の図だ。
注目される事象の筆頭は、やはり新型コロナパンデミック。社員を守る感染対策はもちろん、クラスターや風評被害を防ぐための管理対策が引き続き求められる。人が集まれない環境に適合した事業継続体制の構築も喫緊の課題だ。
特に防災・減災面においては、昨年も豪雨が多発したうえ、秋以降は震度5強クラスの地震が頻発している。複合災害、それも巨大災害を前提としたBCPの見直し、あるいはオールハザードBCP・BCMへのシフトが急務。国や自治体のガイドライン見直し、被害想定見直しが相次いで行われているいまを逃さず早急に取り組みたい。
なかでも気象災害は、過去に例のない事象が世界中で起きている。最近では大洪水、熱波、巨大竜巻が欧米を襲ったが、これらを気候変動リスクととらえて対応を要求する流れはますます加速、脱炭素化が本格化していくだろう。企業のSDGs/ESG 対応は必然となってくる。
発火寸前にあるも見えないリスク
マクロ的な視点に立てば、新型コロナパンデミックは熱帯雨林の改変と人の動きの流動化という側面から、地球環境とグローバリゼーションの問題を我々に突き付けた。のみならず、我々が立脚する近代の経済社会基盤と統治システムの問題を浮彫りにし、それが人の価値観を揺るがして、深刻な対立をも生み始めている。危機はより見えにくくなり、対症療法的な対策では解決が難しい。
不安と不信が人心を厚く覆っている状況は、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置が長期化する日本においても同様だ。無差別殺傷事件の連鎖、ガバナンス・コンプライアンスの欠如に起因する不祥事の多発は、生きる希望の喪失と近代組織の機能不全を如実に表す事象だろう。
発火寸前の火種は数多くある。コロナ禍で進行する過剰債務と後継者難は潜在リスクとなって経営を圧迫、いつ倒産連鎖が起きてもおかしくない。たびたび表面化する工場火災や金融システム障害は、見えない脅威を水面下に隠す氷山のごとき不気味さだ。一方でSNS 炎上や内部告発、反社会勢力といった新手のリスクが企業統治を脅かし、テレワークの普及が感染対策に寄与する裏でデジタルリスクを呼び込んでいる。
活力の再生を目指した組織改革を
相互に絡み合ながら複雑化・多様化していくリスクに対し、今年はより包括的な取り組みが求められると同時に、その取り組みを統括し体系的に実践できる組織のあり方が真剣に模索されるだろう。今回、防災・BCP、リスクマネジメントの専門家が「抜本的な組織改革」の必要性をこぞって指摘しているのは特筆だ。
具体策にあげられたのは、労働関係法令改正への対応、ジェンダー・ダイバーシティーの拡大、弱さに寄り添う人材の育成と企業風土の醸成、アカウンタビリティーの実現、トップのメッセージ力の強化など。それは健全な統治が行われ多様な働き方を包摂する組織の姿であり、危機耐性のあるレジリエントな組織の姿とも重なるはずだ。
カギは人の活力の再生にある。リスク管理・危機管理活動を通じて希望の持てる未来をつくるという意志を担当者と経営層が共有し、社員に、取引先に、顧客に、すべてのステークホルダーに広げていく姿勢が求められるだろう。暗い世相を払しょくし、ムーブメントを興す構えで2022年の対策・活動にのぞみたい。
そのためにも、12人の専門家の分析と提言をぜひ参考にしてほしい。リスク対策.PRO会員が、下記のページからダウンロードできる。
https://www.risktaisaku.com/articles/-/64059
オピニオンの他の記事
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方