浪速産業株式会社

東日本大震災後、事業拠点が被災した場合の対策として、バックアップオフィス(代替事業拠点)の設置を検討する企業が増えている。大阪市内で4棟のビルを所有・管理する浪速産業株式会社(本社:大阪市中央区谷町・中野雅司社長)は、こうした動きを踏まえ、所有ビルの一部フロアを活用し、バックアップオフィスサービスを今春から開始する。同社のバックアップオフィスは、地震や津波の災害において被害が少ないとされる立地とBCPに取り組む中小企業のニーズにも対応できる低コストの契約プランが特長。現在、契約者を募集している。

バックアップオフィスは、災害や事故でオフィスが使えなくなった際に、目標復旧時間内に事業再開するために備えるもの。東日本大震災では被災した企業向けに貸しオフィスが提供されるなどの支援があったが、災害が起こってから行動を起こすのでは迅速な事業復旧にはつながらない。一刻も早く事業を再開するために、また重要事業を止めないためには、あらかじめバックアップオフィスなどの環境を備え、実効性を整えておくことが必要だ。だが、中小企業では、いつ起こるかわからないその時のために高額な費用をかけて代替オフィスを確保するのは厳しいというのが現状だ。

浪速産業が提供するバックアップオフィスは、すべて共用型で、コストを抑えながらそれを担保することができる。場所は同社の本社事務所がある、大阪市中央区のNSビル(中央区谷町2-2-22)建物は新耐震基準で震度6強にも耐えられる。窓ガラスは全てワイヤー入りで飛散防止仕様。また、地震の際に「閉じ込め」が懸念されるエレベータは、停電時自動着床システムが採用されており安全性が高い。大阪府庁や大阪府警察本部が所在する大阪の中枢ともいえる地域であり、電気の復旧に関しては最優先地区にもなっている。



提供するオフィスは3タイプ。10社で15坪を共有し、机、椅子、文具などは備えるが、原則スケルトンによる賃貸というプラン(床や壁紙などの内装済み)。同じく15坪を5社で共有し、椅子、机、インターネット環境を常備したタイプで、PC、プリンタ、PC用カメラ、PCスピーカー、テレビ会議ができるモニターなど周辺機器はユーザーの要望に応えるようなプラン。そして最高グレードは同様の広さの部屋を2社で共有するタイプ。同タイプは、PC2台を含むインターネット環境およびPC周辺機器がいつでも使用できるようスタンバイ状態というものだ。

賃貸料金は、それぞれ月額2万3000円、3万8000円、9万円。パソコン1つで事業継続できる企業もあれば、IT機器フル装備が必要な企業もある。同社では、上記の基本プラン以外にも個室オフィスの要望にも応じるなど、契約企業の要望に可能な限り柔軟に対応するという。

■地盤の硬い上町台地
NSビルが位置する上町台地は大阪城を北端とする洪積層から構成された硬い地盤で、海抜の低い府の中では標高が15~25mと高く、南海トラフ地震による想定5mの津波が発生しても浸水しない地域とされる。また「上町断層」という表現から、上町筋が断層の位置と思われることも多いが、実際の断層は松屋町筋付近を通っており、地盤が隆起しても上町断層と生駒断層の間に位置する谷町筋、上町台地の中心部は被害が少ないとされる。

徒歩5分以内に大阪府庁、大阪府警察本部、NHKがあり、国立大阪医療センター(緊急災害医療機関)、大手前病院(地域医療支援病院)も近い。バックアップオフィスがしっかりと機能するためには、そこで実務を担う人員の生活環境も整えなければならないが、NSビルの半径300m以内には20以上の宿泊施設がある。今後、それらの宿泊施設との提携も検討するという。いざという時の広域避難所は大阪城公園と徒歩5分以内にある4カ所の学校となる。

■社会的使命の新事業


「東日本大震災の様子を目のあたりにし、首都直下型地震や南海トラフ大地震がかなりの高確率で発生することが予測される中にあって、ビル事業者として役に立てることを考えました。また被害が少ないといわれる立地にあることを社会的使命と受け止め、バックアップオフィスは当社が率先してやるべき事業だと考えた」と同社担当者は語る。

今回のサービスは、大阪以外の全国の企業に提案していくが、地震や津波被害が心配される地元企業にも提案するという。この新事業には、同社が策定したBCPの思いが詰まる。ビルオーナーであり、その管理事業者である以上、テナントの事業を継続させること、そして地域への貢献が同社のBCPだというのだ。

同社は2012年4月に大阪のオフィスビル事業者として初めてBCPを策定した。間もなく5月には同社所有ビルのテナントに参加を呼びかけ、BCPセミナーを開催。大阪府危機管理室、大阪府土地開発公社、ろうきん、全労済などテナントの7割以上が参加した。防災士を講師に迎え、スライドで谷町地域の地震や津波の想定、災害時の緊急対応などを説明。BCPの冊子も配布し意識の統一を図った。

さらに策定したBCPに基づく防災訓練を昨年9月と12月の年2回実施。9割以上のテナントが参加した。9月の訓練は隣接する2棟のビルと合同で実施。避難訓練・通報訓練・消火訓練など基本的な訓練に加え、近くの広域避難所まで安全性の高い道を選んで実際に歩く実働訓練も行った。

訓練を経て新たな課題も見えたという。また、訓練に参加したテナント企業からの意見を出してもらい、それらを自社のBCPの改善につなげた。

今後は、AEDや簡易発電機の使用訓練、簡易トイレの設置、消防施設の見学会などを予定する。バックアップオフィスサービスは「自社のBCPとこうした訓練の成果として実った事業」(同)とも説明する。

また、同社がBCPの策定において最も考慮したのが「水」「トイレ」との対策。NSビルでは、屋上と地下の貯水槽に30トンの水を備えているが、災害発生時はその水を飲料用として優先的に使用する計画。テナント企業やビル内店舗の来客者に提供するとともに、可能な限り近隣住民にも提供していく考えだ。また、トイレについては、排泄物をゼリー状に固め消臭効果の高い簡易トイレキットを準備。水がなくても利用できるよう対応。災害時にインフラがストップしても、ビル関係者やバックアップオフィス契約者の3日分の飲料水の確保と、トイレが利用できる環境は万全だ。同社担当者は「昔は城下町で現在は官庁街となったこの地域。これからは災害に強い主体的なまちにならなければいけない。そのために我々は地域に貢献できるビルでありたい」と話す。

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