2022/04/15
事例から学ぶ
機能する災害対策本部
災害対策本部は体でいう脳のように、組織的な災害対策の司令塔としての役割を担う。平時と違い、短時間で大量の情報から重要度の高い情報を見出して分析し、次々に対策を実行しなくてはならない。だが、職員の不在、マニュアル不備、場当たり的な対応などで災害対策本部の機能不全が繰り返し起きている。人口10万人ほどの長野県飯田市は工夫を重ねて機能する災害対策本部を作り上げ、災害に備えている。企業でも生かせる対策本部のポイントを危機管理部危機管理課の後藤武志課長に語っていただいた。
東日本大震災や熊本地震をはじめ、各地で発生する風水害でも自治体の支援活動を行ってきた飯田市危機管理部危機管理課長の後藤武志氏は、災害対策本部を機能させるために必要なものは「人と場所とモノ」と言い切る。
「”人”というのは決断できるリーダーと支える参謀役がいるかどうかが勝負。人材育成で災害対応の専門的な知識を身につけることも重要ですが、災害時に電話アドバイスをもらえるような平時からの専門家との結びつきも大切です。”場所”は文字通り一緒に仕事ができるスペースのこと。危機対応では職場全体で一体感を持って立ち向かうことが、情報共有だけでなくモチベーションや主体性などを引き出す点で非常に重要です。”モノ”は必ずしも高価なシステムではなく、本当に役立つモノを使う。視察先の自治体で使い方を含め、いいモノがあるならどんどん真似して使ったほうがいい」(後藤氏)情報を制する者が戦いを制すると言われるが、その成否は災害対策本部の在り方によって決まっているといっても過言ではない。
災害時の労働環境にも配慮
災害対策本部を機能させるために、不可欠なのが根幹となる「人」の確保だ。大規模な災害で長期的に多忙を極める自治体にとって、痛手となるのが職員の欠勤や休職、離職だ。東日本大震災以降の調査で明らかになったのは、災害時の自治体職員は過度なストレスにさらされ、メンタルヘルスにも多大な影響を受ける。飯田市では災害時の労働環境について服務基準を設け、これを防ごうとしている。基準は①2晩続いた徹夜の禁止②職場での仮眠時間に時間外勤務手当を支給する一方で、連続勤務時間は仮眠でリセット③食料は自治体で準備④仮眠場所での体調やプライバシーへの配慮の4つ。
「発災時の就業規則は法律で決まってなく、言い換えれば『働き続けろ』になる。平成22年7月豪雨災害で私は69時間一睡もできなかったが、これはよくなかった。職員あっての災害対応。あえて基準を設けて職員の負担を減らせる環境にしました」(同氏)
ICSを参考にした組織体制
飯田市では危機管理の組織体制も見直した。平成21年からは素早い意志決定のために市長に危機管理室が直結する体制になった。副市長とともに災害対策本部の副本部長を務めるのは、危機管理室長にした。行政組織的な順位ではナンバー3は教育長だが、役割を鑑みた結果だ。市長に次ぐ指揮権の代行順位も同様の理由で副市長からは危機管理室長、総務部長のように決めた。飯田市では本部長である市長が不在で、代行者が指揮を執る訓練も実施している。
本部事務局の体制で参考にしたのがIncident Command System(ICS)。森林火災で異なる組織が連携して対応に当たれなかったことなどを教訓に1970年代にアメリカで生まれたシステムで、災害対応のルールともいわれているものだ。人、場所、モノを確保するための資源管理班と課題抽出から目標を設定し、対応方針を立案する業務を専任で担当する計画分析班の設置に特徴があるという。
「災害対策本部が状況を把握して課題を抽出し、その課題を解決するための目標を設定して方針まで提示できると、行政組織は一気に動き出します。逆に言えば、ここができないと行政は機能不全に陥ります」(同氏)
情報共有しやすい空間設計
機能する災害対策本部のために、飯田市が工夫したのが「場所」の設計だ。市役所の庁舎改築で危機管理センターなどの施設を市長室と同じ2階フロアに設置した。このフロアを災害対策の中枢として機能させる目的だ。
「最大の特徴は災害の種類や規模に応じて変化できる拡張性」と後藤氏は話す。平時に14人が職務にあたる危機管理センターの隣は、スライド式の壁で仕切られた常設のオペレーションルーム。42人分の机と椅子が用意され、パソコンや電話などを設置されている。オペレーションルームの先には議場があり、同様のスライド式の壁で仕切られている。間仕切り壁を移動させれば執務室とオペレーションルーム、議場をつなげ、より多くの人員が一体的に業務を展開できる。
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