6月は外国人労働者問題啓発月間です
働きやすい環境整備が大切

毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
2022/06/21
ニューノーマル時代の労務管理のポイント
毎熊 典子
慶應義塾大学法学部法律学科卒、特定社会保険労務士。日本リスクマネジャー&コンサルタント協会評議員・認定講師・上級リスクコンサルタント、日本プライバシー認証機構認定プライバシーコンサルタント、東京商工会議所認定健康経営エキスパートアドバイザー、日本テレワーク協会会員。主な著書:「これからはじめる在宅勤務制度」中央経済社
厚生労働省では、毎年6月1日からの1カ月間を「外国人労働者問題啓発月間」とし、外国人問題に関する周知・啓発活動を行なっています。今年は、「共生社会は魅力ある職場環境から〜外国人雇用はルールを守って適正に〜」を標語に、労働条件などルールに則った外国人の雇用や外国人労働者の雇用維持・再就職援助などについて、事業主や国民を対象とした啓発活動が行われています。
① 「外国人労働問題啓発月間」のポスター・パンフレットの配布
② 事業主団体などを通じた周知・啓発、協力要請(「外国人雇用状況の届出」の徹底の周知など)
③ 事業主が集まる各種会合における「外国人労働者の雇用管理の改善等に関して事業主が適切に対処するための指針」(外国人雇用管理指針)の関係資料の配布や助成措置についての周知・啓発
④ 個々の事業主に対する情報提供や外国人労働者の雇用管理改善指導の積極的実施
⑤ 技能実習生の受入れ事業主などへの不法就労防止に関するリーフレットの配布を通じた周知・啓発、「外国人雇用状況の届出」を提出していない事業主への厳格な指導の実施、労働基準監督機関と外国人技能実習機構との間の相互通報制度の適切な運用、悪質な労働基準関係法令違反に対する送検を含めた厳正な対処
⑥「外国人雇用サービスセンター」や新卒応援ハローワーク内に設置している「留学生コーナー」などの留学生就職支援窓口の周知
⑦ 13言語による「外国人労働者向け相談ダイヤル」や「総合労働相談コーナー」における多言語での相談受付の周知
日本で働く外国人労働者は、2021年10月末時点で過去最多の172万7221人でした。新型コロナウイルス感染拡大防止のための入国制限により、伸び率は低水準であったものの、日本で就職した外国人留学生が増えたことで、増加傾向が維持されました。外国人労働者数を在留資格別でみると、永住者や日本人の配偶者など「身分に基づく在留資格」を持つ人が約58万人と最多でした。「特定技能」を含む「専門的・技術的分野」も97%増の39万超となっており、留学生が日本で就職する場合も、この資格を取得することが多くなっています。新型コロナウイルスの感染者数が減少傾向にある中で、入国制限などの水際対策も徐々に緩和されており、日本で働く外国人労働者は今後も増え続けるものと思われます。
外国人労働者が長く働き続けられるようにするためには、外国人が働きやすい雇用環境の整備が必要となります。厚生労働省の外国人雇用管理指針では、外国人労働者の雇用管理の改善等に関して、事業主は、外国人労働者の生活支援、苦情・相談体制の整備、福利厚生施設の確保等について努めることとされています。特に、生活支援に関しては、外国人労働者の日本社会への対応の円滑化を図るため、日本語教育及び日本の生活習慣、文化、風習、雇用慣行等について理解を深めるための支援を行うとともに、外国人労働者が地域社会における行事や活動に参加する機会を設けるように努めることとされています。
外国人労働者の定着を目指す企業では、外国人労働者やその家族に対する健康面や生活面でのサポートを目的とする取組み(福利厚生)として、住居のあっせんや借上社宅の提供、社員寮の設置などを行っています。また、宗教や文化の違いを配慮した取り組みとして、社員食堂でハラール(イスラム法において合法なもの)の食事を提供したり、メニュー表に豚肉・牛肉の使用状況を英語やイラストで表示したり、外国人労働者の入居施設の隣にハラール認証を取得した多国籍レストランを開設することにより夕食にも配慮している事例があります。総務省が平成29年12月11日に公表した「宗教的配慮を要する外国人の受入環境整備等に関する調査―ムスリムを中心として―の結果」では、こうした外国人労働者の食事や礼拝に配慮した企業の取り組み例のほか、宗教上の戒律・生活習慣について、特に制約が多いイスラム教、ヒンドゥー教、ユダヤ教の戒律や習慣をまとめた表が参考資料として添付されており、外国人労働者の福利厚生を検討する企業にとって、大いに参考になるものと思われます。
宗教上の生活習慣や戒律は、同じ宗教であっても国や地域ごとに差があり、個人の解釈も異なります。すべての要望に応えることはできないとしても、企業の実情を踏まえて対応可能な範囲で宗教や文化の違いに配慮した取り組みを実施することは、外国人雇用管理指針に基づく事業主として講ずべき措置という観点からだけでなく、日本人を含めた従業員間の相互理解の促進や、外国人労働者のモチベーションを高め、定着を図る上でも有効なものであると言えます。
ニューノーマル時代の労務管理のポイントの他の記事
おすすめ記事
入居ビルの耐震性から考える初動対策退避場所への移動を踏まえたマニュアル作成
押入れ産業は、「大地震時の初動マニュアル」を完成させた。リスクの把握からスタートし、現実的かつ実践的な災害対策を模索。ビルの耐震性を踏まえて2つの避難パターンを盛り込んだ。防災備蓄品を整備し、各種訓練を実施。社内説明会を繰り返し開催し、防災意識の向上に取り組むなど着実な進展をみせている。
2025/06/13
「保険」の枠を超え災害対応の高度化をけん引
東京海上グループが掲げる「防災・減災ソリューション」を担う事業会社。災害対応のあらゆるフェーズと原因に一気通貫の付加価値を提供するとし、サプライチェーンリスクの可視化など、すでに複数のサービス提供を開始しています。事業スタートの背景、アプローチの特徴や強み、目指すゴールイメージを聞きました。
2025/06/11
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/06/10
その瞬間、あなたは動けますか? 全社を挙げた防災プロジェクトが始動
遠州鉄道株式会社総務部防災担当課長の吉澤弘典は、全社的なAI活用の模索が進む中で、社員の防災意識をより実践的かつ自分ごととして考えさせるための手段として訓練用のAIプロンプトを考案した。その効果は如何に!
2025/06/10
緊迫のカシミール軍事衝突の背景と核リスク
4月22日にインド北部のカシミール地方で起こったテロ事件を受け、インドは5月7日にパキスタン領内にあるテロリストの施設を攻撃したと発表した。パキスタン軍は報復として、インド軍の複数の軍事施設などを攻撃。双方の軍事行動は拡大した。なぜ、インドとパキスタンは軍事衝突を起こしたのか。核兵器を保有する両国の衝突で懸念されたのは核リスクの高まりだ。両国に詳しい防衛省防衛研究所の主任研究官である栗田真広氏に聞いた。
2025/06/09
危険国で事業展開を可能にするリスク管理
世界各国で石油、化学、発電などのプラント建設を手がける東洋エンジニアリング(千葉市美浜区、細井栄治取締役社長)。グローバルに事業を展開する同社では、従業員の安全を最優先に考え、厳格な安全管理体制を整えている。2021年、過去に従業員を失った経験から設置した海外安全対策室を発展的に解消し、危機管理室を設立。ハード、ソフト対策の両面から従業員を守るため、日夜、注力している。
2025/06/06
福祉施設の使命を果たすためのBCPを地域ぐるみで展開災害に強い人づくりが社会を変える
栃木県の社会福祉法人パステルは、利用者約430人の安全確保と福祉避難所としての使命、そして災害後も途切れない雇用責任を果たすため、現在BCP改革を本格的に推進している。グループホームや障害者支援施設、障害児通所支援事業所、さらには桑畑・レストラン・工房・農園などといった多機能型事業所を抱え、地域ぐるみで「働く・暮らす・つながる」を支えてきた同法人にとって、BCPは“災害に強い人づくり”を軸にした次の挑戦となっている。
2025/06/06
リスク対策.PROライト会員用ダウンロードページ
リスク対策.PROライト会員はこちらのページから最新号をダウンロードできます。
2025/06/05
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方