地域貢献、社会からの信頼獲得
―従業員への周知、訓練などの課題も―

国の事業を直接、請け負わなくても、BCP(事業継続計画)策定に取り組む建設会社が出てきている。彼らの目的は地域への貢献であったり、社会、取引先から信頼される企業体質づくり。一方で、従業員への周知、訓練、継続的な改善などは、なかなか構築できないといった課題もあるようだ。

地域のために3000食備蓄千代本興業(埼玉県)

埼玉県上尾市にある千代本興業(社員約40人)は、2006年から社内にBCP策定委員会を立ち上げ、07年4月に会社としてのBCP素案をまとめた。

「世の中のために仕事を通じて役に立つというのがうちの基本方針です。かっこいいことばかり言っても、地震が来て一番先にうちの会社がおかしくなってしまったら、お客様である地域に対して何のサービスも提供できませんから、まず我々がしっかり事業を立て直して、多少なりとも、近所に対して、地域に対して、役に立てるようにするということです」

同社の千代邦夫社長は、BCPへの取り組みの理由をこう語る。95年1月17日の阪神淡路大震災。同社では、この地震を機に、自社の防災だけではなく、地場密着型の建設業者として、地域が被災した時に何をすべきかを考えたという。

ちょうど前年の12月に現社屋が竣工したこともあり、敷地内には防災倉庫を新たに設置。いざというとき近隣住民に提供できるよう、倉庫内には約3000食分の非常食と、防災資機材、医薬品などが備蓄されている。非常食の賞味期限切れに伴う入れ替えなどには、毎年、土木工事の売上の1%(数10万円)を、地域貢献の費用として充てることを決めている。「阪神淡路大震災でよく報じられることですが、一番、被災者の役に立ったのは消防やボランティアではなく、地域住民です。だからこそ、地域密着型の我々がしっかりしなくてはいけないのです」(同)

日常的にも同社では、事業所周辺道路の清掃・美化活動を毎朝実施するなどの地域貢献活動に力を入れている。

「世の中の役に立つ」という企業理念を、災害時でも組織的・体系的に実行に移せるようにと取り組んだのがBCPだ。

「ドカタにはドカタのできることがあるわけでしょ。穴を掘ったり、電柱を片つけたり、道路を直すとか。それが災害が起きても組織的にしっかりできるようにするということですよ」(同)

建築主体の同社では、重機をほとんど保有していないため、被災時には重機・オペレーターが調達できるよう、協力会社と毎年、契約を交わしているという。被災時に必要となる社員や家族の安否確認は、NTTの災害伝言ダイヤル171や、携帯メールなどを使った定期的な訓練で実効性を高めている。さらに、施工中物件における二次災害の発生防止や、主要な顧客への連絡がスムーズに行えるよう、毎月、施工現場リスト、顧客リストをつくり、データでもCDに記録し、保管しているとする。

一方で、昨年前半から景気低迷などで経営状況が厳しくなったこともあり、「BCPの取り組みは中だるみ状態」とBCP策定の中心となった取締役工事部長の藤平政美氏はこぼす。そんな中、関東地方整備局のBCP認定制度を知った。

「国の事業はほとんど受けていませんが、気を引き締めて取り組むよい機会にはなると思っています」と藤平氏は認定制度への申請について前向きな姿勢を見せる。

「客観的な評価は得たい」 松下産業(東京都)

東京都の松下産業(社員約200人)は、昨年からBCP策定に向けた準備を開始している。同社事務部の下村嘉彦氏は東京商工会議所が昨年開催した5日間にわたる研修に出席した。「最初は理解できなかった基本方針やリスク想定の流れが、何となくですが分かってきました」と下村氏は感想を話す。

BCP構築を考えたのは「従業員の安全確保を充実させて事業を継続させなくてはいけないという経営者の意識があったことに加え、発注者(大手建設会社)がBCPを策定したことを、『協力会社の皆様へ』という形で連絡を受けたことがきっかけ」(同)。

今年に入り、下村氏は、研修の成果を生かし自社のBCPを私案という形でまとめた。現在、経営企画室が、その私案をもとに会社としてのBCP案を作成中だとする。

「9月の防災の日ぐらいまでには、何とか経営者の了解を得て、社内に浸透させていきたいと考えています」(下村氏)

一方、現時点での課題としては、施工中現場の安全確認について、「昼間なら担当者が直ぐに確認できるが、夜間や週末は確認するまでに時間がかかることが予測されるため、施工現場や社員の自宅マップを作るとともに、なるべく早く駆けつけられる仕組みを考えた方がいい」などの指摘が出ているとする。

また、訓練についても、「現状で安否訓練はやっているのですが、全員にメールを送っても返事が無い人がいるなど、基本的な部分ができていないのが現状」(同)と明かす。関東地方整備局への申請については、「直接国の仕事を受けるわけではないですが、自ら策定したBCPについて客観的な評価が得られるという点では、次の段階で目標にしてみたい」と下村氏は話している。