2010/11/25
誌面情報 vol1-vol22
防災からERM(Enterprise Risk Management:全社的リスクマネジメント)へ
「機械設備の耐震補強がされていない」「被災時の食料備蓄がない」「コンピューター・サーバーのバックアップがとられていない」‥‥
日常的に社内の危険を見つけ対策を講ずることは、防災・BCP(事業継続計画)対策上、きわめて重要なことだが、こうした課題について防災やBCPの担当者だけが躍起になって改善を求めても、経営者や従業員からはなかなか理解されない、あるいは理解されても、投資が伴うものについては、具体的な対策に結びつかないといったケースをよく耳にする。
こうした課題を解決する1つの手段がエンタープライズ・リスクマネジメント(ERM:全社的リスクマネジメント)だ。
ERMは、防災などの個別のリスクを担当部署だけでいかに軽減するかを考えるのではなく、全社的にリスクを洗い出し、重要なものに優先的に経営資源を配分してリスク管理を行う手法。企業を取り巻くさまざまなリスクの中で、例えば「機械設備の耐震補強がされていない」「コンピューター・サーバーのバックアップがとられていない」といった問題が、どのくらいの位置づけなのか可視化されるため、経営陣にとっては計画的に改善投資がしやすくなる。
全社的視点で防災・BCPの課題を明確化
ERMでリスクを発見
ERMへの取り組みの中で、防災やBCP対策上の課題を解決していくにはどうすればいいのか。平成17年度に経済産業省がまとめた「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト」をもとに考えてみたい。
経済産業省の「先進企業から学ぶ事業リスクマネジメント実践テキスト」では、ERMを「リスクを全社的視点で合理的かつ最適な方法で管理してリターンを最大化することで、企業価値を高める活動」と定義している。組織に影響を与え得るさまざまなリスクを全社的な視点、つまり現場はもとより取締役、経営層までが把握し、それらのリスクに優先順位をつけて経営判断として対処し、しっかり対応ができているか継続的にモニタリングし続けることで企業活動の改善を図る「PDCAサイクル」活動全体のことを指す(図表)。
防災・BCP対策上のぜい弱性を全社的な視点で管理するには、まず企業を取り巻くリスクを洗い出す際に、防災やBCPという視点を従業員一人ひとりに認識してもらう必要がある。
経済産業省の実践テキストによると、社内リスクを洗い出す方法として一般的に行われているのがアンケート法。社内の各部署、部門の担当者が日ごろ感じているリスクを、アンケート調査により集める方法だ。
ただし、前提として求められるのは、その組織がどのような方針に基づきリスクを管理していくのかという姿勢。実践テキストでは、リスクマネジメント方針策定の必要性について次のように説明している。
「リスクマネジメントのゴールや目的、管理範囲や制限が明確に定義されておらず、担当者にその内容が伝わっていないと、担当者は日常業務活動においてビジネスリスクをきちんと管理できなくなる可能性がある…」(※べリングポイント株式会社 野村直秀、川野克典、待島克史『内部統制マネジメント』生産性出版2004年より一部修正)
防災やBCPを重視するなら、『緊急事態発生時にも速やかな対応と復旧を図り、業務の継続を達成する』というような内容の文章を方針に掲げることが有効と言える。
おすすめ記事
-
競争と協業が同居するサプライチェーンリスクの適切な分配が全体の成長につながる
予期せぬ事態に備えた、サプライチェーン全体のリスクマネジメントが不可欠となっている。深刻な被害を与えるのは、地震や水害のような自然災害に限ったことではない。パンデミックやサイバー攻撃、そして国際政治の緊張もまた、物流の停滞や原材料不足を引き起こし、サプライチェーンに大きく影響する。名古屋市立大学教授の下野由貴氏によれば、協業によるサプライチェーン全体でのリスク分散が、各企業の成長につながるという。サプライチェーンにおけるリスクマネジメントはどうあるべきかを下野氏に聞いた。
2025/12/04
-
中澤・木村が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/12/02
-
-
-
-
-
-
目指すゴールは防災デフォルトの社会
人口減少や少子高齢化で自治体の防災力が減衰、これを補うノウハウや技術に注目が集まっています。が、ソリューションこそ豊富になるも、実装は遅々として進みません。この課題に向き合うべく、NTT 東日本は今年4月、新たに「防災研究所」を設置しました。目指すゴールは防災を標準化した社会です。
2025/11/21
-
サプライチェーン強化による代替戦略への挑戦
包装機材や関連システム機器、プラントなどの製造・販売を手掛けるPACRAFT 株式会社(本社:東京、主要工場:山口県岩国市)は、代替生産などの手法により、災害などの有事の際にも主要事業を継続できる体制を構築している。同社が開発・製造するほとんどの製品はオーダーメイド。同一製品を大量生産する工場とは違い、職人が部品を一から組み立てるという同社事業の特徴を生かし、工場が被災した際には、協力会社に生産を一部移すほか、必要な従業員を代替生産拠点に移して、製造を続けられる体制を構築している。
2025/11/20
-
企業存続のための経済安全保障
世界情勢の変動や地政学リスクの上昇を受け、企業の経済安全保障への関心が急速に高まっている。グローバルな環境での競争優位性を確保するため、重要技術やサプライチェーンの管理が企業存続の鍵となる。各社でリスクマネジメント強化や体制整備が進むが、取り組みは緒に就いたばかり。日本企業はどのように経済安全保障にアプローチすればいいのか。日本企業で初めて、三菱電機に設置された専門部署である経済安全保障統括室の室長を経験し、現在は、電通総研経済安全保障研究センターで副センター長を務める伊藤隆氏に聞いた。
2025/11/17








※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方