複合する課題を包括的に解決しないと被災者の自立は困難(写真:写真AC)

「被災者支援のあり方検討会」は、より効率的で質の高い被災者支援の仕組みづくりについて中長期的な検討を行うことを目的に内閣府が設置した有識者会議。介護・福祉や防災の関係者がメンバーとなり、筆者が座長を務めている。前回に続き、6月に開かれた第3回会議の議事要旨(アミがけ部分)にもとづいて、現時点の問題意識を報告する。

1.災害ケースマネジメント

(議事要旨)
被災者への相談支援等において「社会福祉法に基づく重層的支援体制整備事業」を活用することには賛成するが、平時と災害発生時の枠組みを別につくるのは得策ではなく、平時の包括的支援体制や生活困窮者支援体制をベースに組み立てて、災害に特化した弁護士や建築士との連携のあり方を検討した方が具体的になるのではないか。

この部分は、近年の福祉制度と災害時特有の課題を知っていないと意味がわかりにくいので、少していねいに解説する。

現代社会は、一つの世帯に複数の課題が存在している状態(80代の親が50代の子どもの生活を支える8050問題や、介護と育児のダブルケアなど)や世帯全体が孤立している状態など、従来の支援体制ではケアしきれないケースが発生している。

そこで「地域共生社会」という概念に基づき、市町村が創意工夫をもって包括的な支援体制を円滑に構築・実践できる仕組みをつくるため、社会福祉法によって2021年4月より実施されることになった新たな事業が「重層的支援体制整備事業」だ。

この事業では「断らない」「つながり続ける」支援体制を構築することをコンセプトに「属性を問わない相談支援」「参加支援」「地域づくりに向けた支援」の3つの支援を一体的に実施することを必須にしている。

行政は一般に相談に来た人に対応するが、相談に行ける人はむしろ力のある人で、相談に行けない人ほど困窮度が高い。そのため、アウトリーチ活動が重要になる。

実際に困窮の情報を持っているのはケアマネジャーやホームヘルパーだったり、近所の方だったり、民生委員だったりするので、福祉専門職や地域の方々との連携体制も必要だ。この点で、重層的支援体制整備事業では「アウトリーチ等を通じた継続的支援事業」「多機関協働事業」がメニュー化されている。

これはもちろん平時にも重要で、災害時にはますます重要性が増す。というのは、災害時に人は一度に多様な困難に直面しやすいからで、例えば次のような具合だ。

・住宅被害に関しては被害認定調査により罹災証明が発行され、これにより支援制度の適用が決まる。すなわち住宅被害が軽ければ支援は少なくなる。だが、例えば一部損壊の応急修理限度額30万円に対して屋根の修理に200万円以上かかる場合、修理ができないうちに雨漏りなどで住宅が傷んで住みにくくなる可能性がある。

・介護保険を使っている高齢者や、障害サービスを利用している障がい児がいる場合、事業者自身が被災してデイサービスや訪問介護を中止すると、家族介護を強いられ、家族が疲弊する。

・勤めている会社が廃業して生活困窮に陥る場合がある。これにより児童の虐待やDV事案が発生することもある。

・働きながら子育てをして避難生活を送る人は、保育園や学校が休みになると、子育てのために十分に働けなくなったり辞めざるをえなくなったりする。

これらの課題が複合することは珍しいことではない。すべてを包括的に解決しなければ、被災者の自立は困難だ。

課題が複合することは珍しくなく、災害時にはそれらの困難が一層増幅される。包括的に解決しないと被災者の自立は困難だが、そのためには縦割りの壁を乗り越えることが必須(写真:写真AC)

しかし現況では、住宅は住宅課、介護は介護保険課、生活困窮は福祉事務所、虐待は児童相談所や教育委員会、DVは男女協働参画課、就労はハローワークなど、縦割りの行政機関で対応する。しかもその状況が個人情報保護の厳格な解釈によって自治体内部で共有されないと、包括的な課題解決は著しく困難になる。

したがって、重層的支援体制の構築とこれに基づく支援活動は、災害時にこそ活用されるべきであり、平時から運用することで市町村の力が高まることが期待される。

ほかにも、災害時には、例えば住宅ローンの残っている自宅が被災し新たな住宅ローンで再建する二重ローンや、自宅の塀が倒れて隣家に被害を与えたなど特有の問題が生じる。このときは災害に特化した弁護士や建築士との連携が必要であり、その体制構築が求められる。