2015/07/10
C+Bousai vol3
原発被害を乗り越え未来に繋ぐ
風評被害で農作物に打撃
桑折町を襲ったのは地震だけではなかった。原発事故により、2011年4月1日には町内の福島北警察署桑折分庁舎前で毎時2.02シーベルトの放射線量を観測。放射能の影響を避けるため、幼稚園や小学校など、子どもたちの屋外での活動が制限された。運動なども全て窓を閉め切った室内で行われ、夏祭りのスイカ割りも屋内で行ったという。
現在も現役で桑折町長を務める髙橋宣博氏は、児童館や保育所、小中学校など町内の全教育施設11カ所の校庭・園庭の表土を除去することを決定。特に町内の伊達崎小学校では、前年に日本サッカー協会と県の援助で柴の苗が提供され、児童と住民の手で植えたばかりだったが、線量を下げるためにすべて除去された。
さらに、同年10月30日には「こおり復興除染計画」を策定。町内全ての公共施設、住宅、道路などに関して除染を開始した。「髙橋町長の強い想いで、地域の放射線物質の全面除染を開始した。原発から65キロも離れた町で住宅地全域を除染している自治体は桑折町だけ」と同町役場総務課課長補佐兼危機管理係長の菅野泰央氏は話す。
除染で最も問題になるのは、作業で発生する除去土壌を保管する仮置き場の確保だったという。誰でも自分が暮らす地域に汚染された土壌を保管したくはない。当初は住民からの反対が多かったが、安全性を重視する保管場所になることを行政側から懸命に説明することで住民の理解を得て、現在町内の40カ所に仮置き場が設置され、2015年3月現在では全ての住宅除染作業が完了している。
さらにもう1つ、原発事故による深刻な被害があった。風評被害による農作物へのダメージだ。2011年3月23日、国は福島県知事に対し、一部品目に関して食品の摂取制限および出荷制限を指示した。この指示により、桑折町ではタケノコ、コマツナなどの農産物が出荷制限され、町の特産である「あんぽ柿」は生産自粛となり、大量の柿が廃棄されたという。
これに対し、同町では柿、桃、リンゴなど特産の果樹園で徹底した除染作業を行った。樹皮から果実への放射線物質の付着移行を防ぐため、樹皮を高圧洗浄機で削ぎ落とすなどの住民努力の結果、震災後5カ月で収穫された「献上桃」は、放射線量測定機で厳重に管理されて放射線量の問題をクリアし、無事皇室に届けられたという。あんぽ柿は2年間出荷を自粛したが、2013年には一部のモデル地区で出荷を再開。2014年には桑折町全体が加工再開モデル地区となり、全量検査を受けて出荷再開となった。
「全ての出荷物に関して線量数値を測定し、クリアしているので問題はないはずだが、現在に至ってもなかなか価格はもとにはもどっていない。風評被害が完全になくなるには、まだ時間がかかるだろう」と半澤氏は話す。
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