大量の情報から素早く適切な判断をするにはBCPのDX化とAI支援が必要だが(写真:写真AC)

BCPフェーズの大量の情報をどうさばくか

今回はBCP のビジュアライゼーション、すなわち視覚化がテーマです。

ここ数年、BCP訓練をサポートする機会が多くなるなか、訓練で報告される情報の量や質、体裁に目が行くようになりました。その結果、BCPとして目指すべきあるレベルの到達点に向けて「被災状況の視覚化」が重要ではないかと考えるようになりました。このことは、初動フェーズ訓練よりも、BCPフェーズ訓練においてより一層際立ってくるようです。

初動時、つまり発災直後の数時間内に起きた出来事を対策本部や事務局に報告・共有する初動フェーズ訓練では、ポータルサイトに掲出される報告内容の字面と担当者の声を、リモートを通じて見聞きすることになります。実際の報告内容はヒト、モノ、ジョウホウの損傷ですが、初動時のBCP活動は人命優先ですから、報告を受ける側はヒトを中心とした報告がすんなり入り、指示を出しやすいことはいうまでもありません。

一方、BCPフェーズ訓練になると事は複雑です。製造業や流通業など、工場や配送センター、倉庫、支店、営業所が多いと、各拠点からの報告内容は事業(復旧)要素の高い項目が多くなり、聞く側(経営層)は非常に混乱します。

経営者は一国の大統領的思考が求められる(写真:写真AC)

BCPフェーズではヒトの問題がある程度クリアになっているので、モノとジョウホウに関する莫大な報告を受けることになります。経営層は事業継続のために、何が重要で、何をあきらめ、何を優先し、組織やモノをどう動かすか、大量の情報から素早く判断しなければなりません。いわば一国の大統領的思考が求められるわけです。

取締役・役員がBCPフェーズ訓練に参加すると、おそらくこの状況を思い浮かべ、ある種の恐ろしさを感じるのではないでしょうか。自分は経営者として大量の情報に接し、取捨選択しながら会社とステークホルダーにとって最適な判断ができるのだろうか、と。

BCP-DX/AIのハードルを下げる代替案

実際、報告する側は自らの事業所の被災内容をBCP的に分かり易く、ヒト(従業員)、モノ(施設および設備)、ジョウホウ(IT)に細分化して報告します。しかし報告はそれだけでなく、事業(復旧)にからむさまざまな要素が新たに加わります。

取引先からの資材・原材料の供給、営業を通じた顧客からの要望、工場・配送センターにある在庫量と被災による出荷品質のレベル、物流の状況やクレーム対応などがそれ。内外のあらゆる情報が時系列に変化しながら加わり、事業体が多ければ多いほど、情報量として莫大になります。

この点で、大企業はBCP情報の DX化とAIによる対策本部の判断支援が求められます。その取り組みに注力すべきというのが、この連載でも何度か述べている私の主張ですが、一方で取り組みのハードルが余りに高く、着手すらできないというご意見も多くいただきます。

DXやAIで予測モデルをつくるにはある程度の教師データが必要ですが、その教師データがまったくない、つまり過去の災害の経験を自社の被災データとして残せていない状況では、DX/AI化がままならないというわけです。

視覚化することで見えにくいものが見えてくる(写真:写真AC)

しかし、BCP-DX/AIに踏み出す一歩として、いったん人の視覚的な把握能力に頼るという方法があります。物事の本質を見極めたい時、マインドマップやホワイトボードに全体像を描いてみることで、整理し易くなり、見えてくるものがあるように、自社の状況を俯瞰するための図が役に立つという考え方です。

DX/AIの機能の一つに、次元減少による簡易化というものがありますが、DX/AIに至らずとも、大量のデータ項目を目的にそって減らし、方向性や特異点にフォーカスすることで見えてくるものがあります。よく「木を見て森を見ず」という言葉がありますが「森を見る」ために、視覚化が役立ちます。