「人生100年時代」の職場環境を考える(写真:写真AC)

日本では、少子高齢化が急速に進み人口が減少する中で、経済社会の活力を維持するためにも、働く意欲を持つ高齢者の活躍が求められています。一方、高齢者は、筋力や敏捷性などの体力が低下しているため、職場における安全配慮の観点から国は「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(以下、「ガイドライン」)を策定しています。

このガイドラインにおいて、企業は、自社における高年齢労働者の就労状況や業務内容などの実情に応じて、次の5つの事項について取り組むことが求められています。

1)安全衛生管理体制の確立等
2)職場環境の改善
3)高年齢労働者の健康や体力の状況の把握
4)高年齢労働者の健康や体力の状況に応じた対応
5)安全衛生教育

前回は「安全衛生管理体制の確立等」について解説しましたが、今回は「職場環境の改善」について説明します。

1.職場環境の改善

職場環境を高年齢労働者の観点から改善するにあたっては、「ハード面の対策」と「ソフト面の対策」の両面から検討する必要があります。

(1)ハード面の対策

身体機能の低下に配慮したハード面の対策が必要(写真:写真AC)

ハード面の対策は、身体機能が低下した高年齢労働者であっても安全に働き続けることができるように、職場の施設、設備、そして装置などの改善を検討して、必要な対策を講じることです。一度にすべての対策を講じることはできませんから、職場の高年齢労働者の特性やリスクの程度を勘案し、優先度の高いものから進めることが求められます。

具体的には、次のような項目が考えられます。

①共通事項
・視力や明暗の差への対応力が低下することを前提に、通路を含めた職場の照度を確保する
・階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消する
・床や通路の滑りやすい箇所に防滑素材(床材や階段用シート)を採用する
・滑りの原因となる水分・油分を放置せずに、こまめに清掃する
・やむをえず、段差や滑りやすい箇所等の危険箇所を解消することができない場合には、安全標識等の掲示により注意喚起を行う


②危険を知らせるための視聴覚に関する対応
・警報音等は、年齢によらず聞き取りやすい中低音域の音を採用する
・音源の向きを適切に設定する
・職場で定常的に発生する騒音(背景騒音)の低減に努める


③暑熱な環境への対応
・涼しい休憩場所を整備する
・保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備する
・熱中症の初期症状を把握できるウェアラブルデバイス等の IoT 機器を利用する


④重量物取り扱いへの対応
・不自然な作業姿勢を解消するために、作業台の高さや作業対象物の配置を改善する
・身体機能を補助する機器(パワーアシストスーツ等)を導入する


⑤情報機器作業への対応
・パソコン等を用いた情報機器作業では、照明、画面における文字サイズの調整、必要な眼鏡の使用等によって適切な視環境や作業方法を確保する(その際、「情報機器作業における労働衛生管理のためのガイドライン」(令和元年7月 12 日付け基発 0712 第3号厚生労働省労働基準局長通知)を参考にする)