2010/11/25
誌面情報 vol1-vol22
■リスクの評価
網羅性を考える上で、もう1つ重要なのが1つ1つのリスクの粒感、つまりリスクの大きさの調整だ。企業として優先的に対処すべきリスクを見極めるために全社的な洗い出しをするのであって、あまりに細かなリスクまで吸い上げることは効率的とは言えないからだ。
これについてもいくつかのやり方があるという。例えば部門の中でリスクの優先順位付けをした上で上位10∼20を本社にあげてもらう方法や、調査事務局がリスクの規模も含めて例を示す方法など。『財務上の「不正リスク』というような項目を挙げておけば、『伝票に上司が判子を押し忘れる』というようなリスクは小さすぎるという判断ができます。リスクは日常的なケアレスミスから、他社から買収されるというような巨大なものまでいろいろあるので、いかに粒感をそろえていくかも事務局の手腕です」(達脇氏)。
ただ、実際に企業を取り巻くリスクは財務と労務といった具合に、種類も性質も異なるため、粒感をそろえるのはかなり難しい。実践テキストの中では実例として、リスクの大きさの指標となる発生可能性や影響度を数段階に分けて回答者に選択してもらうケースや、具体的な金額の範囲から影響度を選んでもらう方法などを紹介しているが、達脇氏は「もともとERMは、性質の異なるリスクを同じ土俵で比較することに無理がある」と指摘する。それでも、同じリスクマップに載せて整理する理由は「いくつものリスクがある中で、組織としてどこから対策に取り組むか優先順位を決めるため。リスクの評価にあまり時間をかけるよりは、ある程度のいい加減さがあってもいいので(リスクマップの)右上にある大きなリスクにしっかりとリソースを集中させることが大切」とする。防災やBCP対策なら、関連するリスクが、他のリスクと比べどのような位置づけになるかが、経営判断を得る上でのポイントになる。最も注意すべき点は、細かなリスクに目を奪われて、企業にとって本当に対策を講じるべきリスクに手がまわらなくなってしまうということだ。
■継続的な監視
こうした洗い出し作業は初回が一番大変で、2回目以降は初回に洗い出されたリストをもとにしながら、年に1回、あるいは数カ月に1回程度のペースで継続して実施していくことになる。「2回目以降は、リスクがどう変化していくかを見ていくということが重要になります」(達脇氏)。企業はこれらのリスクをPDCAサイクルを通じて計画的に対処していくことが求められる。
新型インフルエンザやアスベスト問題など、それまで見落としていて新たに顕在化したリスクについても、一覧に加えて管理していけばいい。達脇氏は「会社をとりまく環境が変わるにつれリスクの性質も変わっていく恐れがあるので、繰り返し継続的に調査を行うことが大切」と話している。
■ERMへの取り組み高まる
ERMへの取り組みはすでに多くの大企業で行われている。トーマツでは、同社が開催するセミナー出席者らに対してリスクマネジメント体制の構築や運営についてアンケート調査を行っているが、2009年調査では、体制構築および運営の双方の項目の平均が80%を超え(下図表)、リスクマネジメントのすそ野が着実に広がっていることを裏付けた。「弊社主催のセミナー参加者ということで母集団のレベルが若干高いとは思いますが、調査を開始した2002年当時は40%程度だったことを考えると、かなり取り組みは進んでいると言えます」(達脇氏)。
また、各企業が優先するリスクについては、「情報漏えい」「財務報告の虚偽記載」が例年上位に位置しているが、近年では「地震・風水害など、災害対策の不備」や「感染症拡大による事業継続の困難」など、事業継続に関するリスクが上位にあがってきているという。
おすすめ記事
-
-
備蓄燃料のシェアリングサービスを本格化
飲料水や食料は備蓄が進み、災害時に比較的早く支援の手が入るようになりました。しかし電気はどうでしょうか。特に中堅・中小企業はコストや場所の制約から、非常用電源・燃料の備蓄が難しい状況にあります。防災・BCPトータル支援のレジリエンスラボは2025年度、非常用発電機の燃料を企業間で補い合う備蓄シェアリングサービスを本格化します。
2025/04/27
-
自社の危機管理の進捗管理表を公開
食品スーパーの西友では、危機管理の進捗を独自に制作したテンプレートで管理している。人事総務本部 リスク・コンプライアンス部リスクマネジメントダイレクターの村上邦彦氏らが中心となってつくったもので、現状の危機管理上の課題に対して、いつまでに誰が何をするのか、どこまで進んだのかが一目で確認できる。
2025/04/24
-
-
常識をくつがえす山火事世界各地で増える森林火災
2025年、日本各地で発生した大規模な山火事は、これまでの常識をくつがえした。山火事に詳しい日本大学の串田圭司教授は「かつてないほどの面積が燃え、被害が拡大した」と語る。なぜ、山火事は広がったのだろうか。
2025/04/23
-
リスク対策.com編集長が斬る!今週のニュース解説
毎週火曜日(平日のみ)朝9時~、リスク対策.com編集長 中澤幸介と兵庫県立大学教授 木村玲欧氏(心理学・危機管理学)が今週注目のニュースを短く、わかりやすく解説します。
2025/04/22
-
帰宅困難者へ寄り添い安心を提供する
BCPを「非常時だけの取り組み」ととらえると、対策もコストも必要最小限になりがち。しかし「企業価値向上の取り組み」ととらえると、可能性は大きく広がります。西武鉄道は2025年度、災害直後に帰宅困難者・滞留者に駅のスペースを開放。立ち寄りサービスや一時待機場所を提供する「駅まちレジリエンス」プロジェクトを本格化します。
2025/04/21
-
-
大阪・関西万博 多難なスタート会場外のリスクにも注視
4月13日、大阪・関西万博が開幕した。約14万1000人が訪れた初日は、通信障害により入場チケットであるQRコード表示に手間取り、入場のために長蛇の列が続いた。インドなど5カ国のパビリオンは工事の遅れで未完成のまま。雨にも見舞われる、多難なスタートとなった。東京オリンピックに続くこの大規模イベントは、開催期間が半年間にもおよぶ。大阪・関西万博のリスクについて、テロ対策や危機管理が専門の板橋功氏に聞いた。
2025/04/15
-
BCMSで社会的供給責任を果たせる体制づくり能登半島地震を機に見直し図り新規訓練を導入
日本精工(東京都品川区、市井明俊代表執行役社長・CEO)は、2024年元日に発生した能登半島地震で、直接的な被害を受けたわけではない。しかし、増加した製品ニーズに応え、社会的供給責任を果たした。また、被害がなくとも明らかになった課題を直視し、対策を進めている。
2025/04/15
※スパム投稿防止のためコメントは編集部の承認制となっておりますが、いただいたコメントは原則、すべて掲載いたします。
※個人情報は入力しないようご注意ください。
» パスワードをお忘れの方